世界は君に似ている
高校二年生の雨宮朔には、昔から壁の染みや雲、木目などが人の顔に見える癖があった。誰にも話さずにいたその感覚を、隣の席の水城依澄だけが同じように持っていた。
雨の日の窓に浮かんだ「猫の顔」をきっかけに、二人は校内や帰り道で“顔に見えるもの”を探す遊びを始める。何気ない写真を送り合い、放課後を共に過ごすうち、朔は依澄に惹かれていく。そしていつしか、朔には世界のあちこちが依澄の顔に、依澄には朔の顔に見えるようになっていた。
恋をすれば、世界に好きな人が増えるのかもしれない。
そう思っていた二人だったが、撮りためた写真には奇妙な共通点があった。そこに見える顔はすべて同じ方向を向き、やがて笑顔から泣き顔へと変わっていく。
さらに依澄は、幼い頃に姉を事故で亡くしたあとにも、家中の模様に姉の顔を見ていたことを明かす。調べた朔は、曖昧な模様や形の中に意味のあるものを認識してしまう「パレイドリア」という現象を知る。
ただの脳の錯覚なら、なぜ二人は同じ場所に顔を見るのか。
なぜ、そこに浮かぶ口の形まで同じなのか。
写真を並べた二人には、それが「逃げて」という言葉に見え始める。
やがて依澄が姿を消す。
朔が街中に浮かぶ無数の“依澄の顔”の視線を追って辿り着いたのは、かつて彼女の姉が命を落とした古い歩道橋だった。
そこで依澄は、姉が死ぬ前日に「大嫌い」と言ってしまったことを告白する。自分は最後まで姉に嫌われたままだったのではないか。その罪悪感を抱え続けていたのだ。
しかし朔が写真を見直すと、「逃げて」と読んでいた口の形は、別の見方をすれば「好き」とも読めた。
それが姉からの言葉なのか。
二人がそう思いたいだけなのか。
あるいは、ただの傷や染みに過ぎないのか。
答えは出ない。
それでも朔は、自分が依澄を好きであることだけは、自分で選んだ意味だと伝える。
世界に最初から意味があるのではない。
人はきっと、無数の偶然や曖昧なものの中から、自分にとって大切な意味を見つけて生きていく。
雨粒の中に猫を見つけたあの日から始まった、少年と少女の恋と、喪失と見間違いをめぐる青春恋愛ホラー。
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なぜ、そこに浮かぶ口の形まで同じなのか。
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やがて依澄が姿を消す。
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そこで依澄は、姉が死ぬ前日に「大嫌い」と言ってしまったことを告白する。自分は最後まで姉に嫌われたままだったのではないか。その罪悪感を抱え続けていたのだ。
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それが姉からの言葉なのか。
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あるいは、ただの傷や染みに過ぎないのか。
答えは出ない。
それでも朔は、自分が依澄を好きであることだけは、自分で選んだ意味だと伝える。
世界に最初から意味があるのではない。
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