和国戦記 -風の天馬


潮の香りが、鼻を突いた。
冷えた波しぶきが頬を叩き、湿った海風が天馬の髪をゆるく撫でる。

「……どうやら、生きちまったらしいな。」

軋む舟の上で、天馬は目を覚ました。
昨日の戦の続きを夢で見たような、そんな妙な気分だった。

傍らには一本の刀。
長年連れ添った相棒だけが、今も静かに天馬の手に馴染んでいた。

「ま、どこだろうが、生きてりゃ何とかなるさ。」

天馬はゆっくりと身体を起こし、木片のように漂う小舟の端に座る。
遠くに見えるは、緑深い島。──いや、国だ。

見知らぬ港、見知らぬ旗、見知らぬ匂い。

天馬は、軽く笑った。

「新しい風が吹いてきたな。」

かつて仕えた主もいない。
背負うものも、追うものもない──はずだった。

だが、この見知らぬ国で、思いも寄らぬ因縁と、血の宿命が天馬を待ち受けているとは、
この時の彼はまだ、知る由もなかった。

船が、岸に打ち上げられる。
天馬は、砂浜を踏みしめる。

「さて──どんな面白ぇ奴らがいるか、ちょいと探してみるとするか。」

潮風が天馬の髪を躍らせる。
風は彼を、まだ見ぬ戦へと誘っていた。

和国の戦(いくさ)の物語が──今、動き出す
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