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53.出口
しおりを挟むアメジストは転んだ時の体勢から膝をついたままで呆然としていた。それから二、三分後にハッと、我に返る。
「そうだわ、確認しないと」
書庫にあった隠し扉の通路を抜けてから着いた、出口扉。その方向へアメジストは向き直る。自分がどうやって部屋へ、何処から出てきたのかを確かめたかったからである。
手を床につきながらゆっくり立ち上がると恐る恐る出口扉を見た。まだ少し潤んだ桃紫色の美しい瞳に映った部屋の景色は、いつもと変わりない。
しかし目の前で開いている扉、出口と繫がっていた場所とは――。
「こんな事ってあるの!?」
なんと自分のお気に入りの洋服をたくさんかけてある、木製で出来た小さめのクローゼットの中から彼女は、出てきたのであった。
シュ……カチャッ、カチャッ……。
驚いたアメジストは中のハンガーパイブにかかる洋服を動かし、奥を確認してみる。
「何も……ない」
(いいえ違う、あるはずがないのよ)
何かしらの魔術なのか? このベルメルシア家にどのような秘密があるのかと考える、アメジスト。良きも悪きも解らないが今起こっている事が、真実だ。
(聞いていた出口でもなくて……でも出られて良かった)
彼女の部屋にはもちろん広いウォークインクローゼットがある。が、しかしこんなに狭く小さなクローゼットが選ばれた? この部屋へ繋がっていた理由も不可解。
「怖くはないけれど、不思議な気分」
アメジストは一人、ぽつりと呟く。
いつかこの家の秘密を知る事が私にも許されるのだろうか? いつか“力のない自分が”と少し心配になりながら、考え込む。
――キィ、コトン。
一瞬、不思議な扉へと変化したお気に入りの洋服がかけられたクローゼットを彼女は大切そうに見つめ、閉めた。
「少しだけ……」
アメジストはベッドで横になり、窓から見える大きな木をボーッと眺めた。揺れている木の葉のように悩みは枝分かれし様々な事柄が頭の中で、広がってゆく。
――ベルメルシア家での、自分の立ち位置。
「私はこのお家で、どんな存在なのかしら?」
コン、コン、コン、コン。
そんな事を考えていると、部屋の扉を叩く音がした。
「失礼いたします、アメジストお嬢様。昼食のお時間をお伝えに参りました」
ゆっくりと扉を叩く音、外から聞こえてくる抑揚のないハキハキとした声。朝と変わらない冷たい空気。
お手伝いの一人は今日も決められたセリフで呼びに来る。そしてアメジストはいつも通り明るく感謝の言葉を、伝えていた。
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