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104.理由

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「へっぇえ~、なぁに? 今日はみ~んな仲がよろしいのねぇ」

「お、奥様……」

 部屋の隅から聞こえてきた低めの、声。
 オニキスに発言の制止を受けしばらく黙って話を聞いていた、スピナである。

「あらあら~? 今日はずいぶんとテーブルの上が寂しいですこと」

 食事の時間が遅れている理由は皆、分かっている。そして今までにない明るい朝を迎えているのはオニキスの、意思でもあった。

 もちろんスピナも食事の準備が完了していない理由は知っている。そう、知っていて「遅い!」と、指摘するスピナは楽しむように喜び弾む声でお手伝いたちを、責める。

「ああぁ、申し訳ございません!!」
「奥様、すぐにお食事を――」

「ちょっと何時だと思っているの! 一体これは、どういうことなのかしら? だいたい数分前に旦那様もお見えになっているというのに……あなたたち、何を遊んでいたの!?」

「申し訳ございません!」

 お手伝いたちの表情は“無”の状態へ戻り、和やかな雰囲気だった食事の部屋は一気に、静まり返る。

 心の奥から消えてゆく、笑顔。
 皆は慌てながらも足音や物音に細心の注意を払い朝食の準備をさらに、急ぎ始めた。

 その理由は、ひとつ。

 部屋にいるお手伝いのほぼ全員がベルメルシア家の奥様と“スピナ”に対して強い、恐怖心を抱いているからである。

(なぜ、お母様はいつも相手を傷つけるような言葉を!?)

「お母様、お止めください!」

 その酷く非情な継母の言い方に心を痛めたアメジストは意を決し、口を開く。
 しかしスピナの心身攻撃は、止まらない。

「あぁ~はいはい、良い子良い子のアメジストちゃん? ところで」

「あっ……!」

 次に向けられた矛先は、窓際の方向である。そよ風に揺れるカーテンに見え隠れするクォーツに向かってスピナは不気味な笑みを、浮かべた。

「ふぅ~ん……旦那様の“娘”として過ごす、ということは?」

「――!!」
(やめて、お母様!)

 瞬間的に「守らなきゃ」と思った、アメジスト。その華奢な身体は気付くと勝手に、動いていく。

 ギューッ。
「んぅ! お姉様ぁ、どうしたのですか?」

 それはごく、自然に――。

 すぐ傍にいたクォーツの肩を後ろから守るよう、強めに抱き締める。

「ううん? 何でもないわ、クォーツ。貴女の事があまりにも可愛い過ぎて……ぎゅっとしたくなっただけですの」

 そう笑いかけ話すアメジストの言葉に応える、クォーツ。嬉しそうに「ぎゅ~」と言い満面の笑みを、返すのであった。
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