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動き出す断罪劇③-①
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月明かりだけが闇を照らす中、早馬が王弟の屋敷の門に到着した。
「開門!開門されたし!」
大声で騎乗した男が叫ぶと、先程まで仮眠をとっていたと思われる門番が
ゆっくりと欠伸を手で隠し出てくる。
「このような夜更けに無礼であろう。ここは王弟殿下の屋敷であるぞ」
門番は追い払うつもりで男に言ったのだが、
男は、屋敷を間違う事無く到着したと安堵する。
「馬上にて失礼を致す。
我は国の西にあるプセン要塞の司令官であるエイト司令より
王弟殿下に喫緊の対応を求めたしとの伝令を伝えに参った」
右に左にせわしない動きをする馬を巧みに手綱を引き
門番にゆっくりと、そしてはっきりした声で
【大至急】王弟に取り告げと告げる。
眠気も覚めた門番は、一旦小屋に戻り仮眠中の同僚を叩き起こし、
上着を無造作につかむと王弟の屋敷まで急ぎ走る。
静まり返った玄関を見て、門番は使用人用の裏口にまわる。
裏口は使用人の休憩所への扉でもあったので
夜勤で眠気覚ましに茶を飲みに来た使用人が門番に気が付く。
使用人は、家令の部屋の扉を叩き、家令を起こす。
「何事ですか」
それでも家令は素早く着替えを済ませる。
門番から砦より早馬が来たことを知らされると、
直ぐに通すよう伝え、執事を起こし、主人である王弟の部屋に行く。
王弟は、ベッドから起き上がりはしたものの、
ガウンを羽織るだけで着替えずに早馬の伝令を待った。
国防の要である砦からの早馬の使者は色々な挨拶を省くことを
許されている。
屋敷に通された騎士の甲冑は、ランプの灯りの下に来ると
ところどころ鎖帷子が血で染まっているのに、
屋敷の使用人は言葉を飲み込んだ。
簡単な会釈程度の礼をすると堂々と王弟の前に出る。
「王弟殿下に申し上げます」
「何だ。申してみよ」
「プセン砦、陥落致しました。わたくしは司令より王弟殿下への
伝達の命令を帯び、早馬にて参った次第」
その言葉に、王弟は思わず立ち上がり再度問う。
「砦が・・プセン砦が落ちただと?」
「はい、伝令は数時間前より出しておりましたが、
敵襲に合ったと思われ道中で亡骸を確認致しました。
狼煙の合図も、中間地点が強襲されており機能せず報告が遅れました。
砦は今朝方から西国の奇襲攻撃にあい、戦況は防戦一方。
昼前には門が突破され、わたくしが馬で出た頃には
辺境伯ご夫妻、ご子息、司令は塔に籠られ
降伏を潔しとせず自決して果てるとの事にて!」
「な、なんだと!」
王弟は、前のめりに倒れ込み雄叫びのような声で吠え、
両手の拳を柔らかいカーペットに何度も叩きつける。
「グアァァァァァァ!フグァアアアア!!」
用は済んだとばかりに早馬の騎士は一礼をすると
クルリと王弟に背を向けて部屋から出ようとした。
王弟は、叫びすぎて口元から涎を垂らし、充血した目で
騎士を睨みつけると、大きな声で言った。
「その者を捕らえよ!屋敷から出してはならん!!」
ワッと使用人や屋敷の護衛が騎士に飛び掛かるが、
実戦で鍛え上げている騎士と、
単なる使用人や切った張ったの経験がまるでない護衛では格が違う。
剣を抜かず、足掛けや手刀で自身に襲い掛かる輩を蹴散らすと、
床を踏み抜くかと思うほどの怒りをぶつけるように歩き
玄関から出て、馬にまたがり王城に進路を取った。
「開門!開門されたし!」
大声で騎乗した男が叫ぶと、先程まで仮眠をとっていたと思われる門番が
ゆっくりと欠伸を手で隠し出てくる。
「このような夜更けに無礼であろう。ここは王弟殿下の屋敷であるぞ」
門番は追い払うつもりで男に言ったのだが、
男は、屋敷を間違う事無く到着したと安堵する。
「馬上にて失礼を致す。
我は国の西にあるプセン要塞の司令官であるエイト司令より
王弟殿下に喫緊の対応を求めたしとの伝令を伝えに参った」
右に左にせわしない動きをする馬を巧みに手綱を引き
門番にゆっくりと、そしてはっきりした声で
【大至急】王弟に取り告げと告げる。
眠気も覚めた門番は、一旦小屋に戻り仮眠中の同僚を叩き起こし、
上着を無造作につかむと王弟の屋敷まで急ぎ走る。
静まり返った玄関を見て、門番は使用人用の裏口にまわる。
裏口は使用人の休憩所への扉でもあったので
夜勤で眠気覚ましに茶を飲みに来た使用人が門番に気が付く。
使用人は、家令の部屋の扉を叩き、家令を起こす。
「何事ですか」
それでも家令は素早く着替えを済ませる。
門番から砦より早馬が来たことを知らされると、
直ぐに通すよう伝え、執事を起こし、主人である王弟の部屋に行く。
王弟は、ベッドから起き上がりはしたものの、
ガウンを羽織るだけで着替えずに早馬の伝令を待った。
国防の要である砦からの早馬の使者は色々な挨拶を省くことを
許されている。
屋敷に通された騎士の甲冑は、ランプの灯りの下に来ると
ところどころ鎖帷子が血で染まっているのに、
屋敷の使用人は言葉を飲み込んだ。
簡単な会釈程度の礼をすると堂々と王弟の前に出る。
「王弟殿下に申し上げます」
「何だ。申してみよ」
「プセン砦、陥落致しました。わたくしは司令より王弟殿下への
伝達の命令を帯び、早馬にて参った次第」
その言葉に、王弟は思わず立ち上がり再度問う。
「砦が・・プセン砦が落ちただと?」
「はい、伝令は数時間前より出しておりましたが、
敵襲に合ったと思われ道中で亡骸を確認致しました。
狼煙の合図も、中間地点が強襲されており機能せず報告が遅れました。
砦は今朝方から西国の奇襲攻撃にあい、戦況は防戦一方。
昼前には門が突破され、わたくしが馬で出た頃には
辺境伯ご夫妻、ご子息、司令は塔に籠られ
降伏を潔しとせず自決して果てるとの事にて!」
「な、なんだと!」
王弟は、前のめりに倒れ込み雄叫びのような声で吠え、
両手の拳を柔らかいカーペットに何度も叩きつける。
「グアァァァァァァ!フグァアアアア!!」
用は済んだとばかりに早馬の騎士は一礼をすると
クルリと王弟に背を向けて部屋から出ようとした。
王弟は、叫びすぎて口元から涎を垂らし、充血した目で
騎士を睨みつけると、大きな声で言った。
「その者を捕らえよ!屋敷から出してはならん!!」
ワッと使用人や屋敷の護衛が騎士に飛び掛かるが、
実戦で鍛え上げている騎士と、
単なる使用人や切った張ったの経験がまるでない護衛では格が違う。
剣を抜かず、足掛けや手刀で自身に襲い掛かる輩を蹴散らすと、
床を踏み抜くかと思うほどの怒りをぶつけるように歩き
玄関から出て、馬にまたがり王城に進路を取った。
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