炎上した料理研究家は、海辺のホテルで朝食を焼く
人気料理研究家として知られていた水瀬千晴は、共同監修した新商品の盗作疑惑によって、仕事も婚約も一気に失った。
けれど彼女が本当に得意だったのは、人を驚かせる一皿を生み出すことではない。原価、仕込み、工程、食品表示、スタッフの動き――料理が毎日きちんと届くよう、厨房全体を成立させることだった。
行き場をなくした千晴がたどり着いたのは、海辺の小さなホテル《汐風館》。
朝食の評判はいい。客も喜んでいる。それなのに、料飲部門は赤字だった。
「料理を作る人は足りています。厨房を立て直せる人なら欲しい」
総支配人・黒瀬冬馬の言葉をきっかけに、千晴は三日間だけホテルの現場を見ることになる。
多すぎる仕込み。ばらばらに管理された予約数。捨てられていく小鉢。けれど、そこには数字だけでは分からない料理人の誇りや、地元の漁師との付き合い、客に最後まで選ばせたいという現場の理由があった。
数字だけでは、人は動かない。
そう知った千晴は、誰かの名前の後ろに隠れるのではなく、自分の仕事を自分の名前で引き受け直していく。
そして、彼女の過去を無条件に信じるのではなく、目の前の仕事だけを見続ける冬馬との距離も、少しずつ変わっていく。
これは、失った肩書きを取り戻す物語ではない。
自分の仕事に、もう一度、自分で名前をつける物語。
けれど彼女が本当に得意だったのは、人を驚かせる一皿を生み出すことではない。原価、仕込み、工程、食品表示、スタッフの動き――料理が毎日きちんと届くよう、厨房全体を成立させることだった。
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