むすび屋おえん ~さくらと大根の甘酢和え~
ここは居酒屋「むすび屋」。
変哲のない、よくある居酒屋だ。
きり盛りするのは、女亭主と、若い娘の二人。
女亭主は三十路くらいか。年増と言っていいが、独り身らしい。名をおえんと言う。
顔立ちが整っており、言い寄る男の一人ふたりいてもおかしくないのだが、浮いた気配はなさそうだ。
それもそのはず、なにせ気性が荒いのである。
蓮っ葉とはおえんのためにあつらえた言葉と思うほどで、口が悪い、あしらいが雑。手が離せないときは、銚子の片付けを客にやらせるほどである。もちろん酌なんてするはずもない。
こんな店では、とっとと客が離れていきそうなものだが、妙に賑わっている。
おえんの啖呵がくせになると言うものもあれば、料理が案外悪くないんだと言うものもいる。
そう。むすび屋の料理は、たしかに旨いのだ。手がこんでいるというより、心がこもっている。決まった料理帳はなく、おえんの気まぐれ次第。頼めば茶漬けくらい出してもくれる。
ただ、唯一出さないのが握り飯だ。
なによりたやすい料理のはずだが、「そんな面倒なことやってられるかい」と頑として出してはくれない。
そんな偏屈な店のくせに、今日も客が訪れる。
おえんの口の悪さも、奥底に人の良さが見え隠れする。すべては照れ隠しの裏返しだと、常連は分かっているのだ。
おえんを手伝う娘、おはるの手助けも大きい。ちょこまかとよく動き、目端が利く。愛嬌よくころころ笑い、客をまぁまぁとなだめる。その塩梅がちょうどいいのだ。
おはるが店を手伝うようになってから、結び屋の客が増えたともっぱらの噂だ。
むすび屋の客は、いろいろだ。
風呂上がりのご隠居もいるし、身分を隠しているような二本差がいれば、泣きながら酒を飲む身重の女もいる。
誰かに連れられて訪れることもあれば、ふらりと入る一見もいる。
どうしてこの店に来たのか、と尋ねると、「さぁどうしてだろうねぇ」と誰もが口をそろえる。まるで手招きされたように、つい暖簾をくぐってしまうのだ。
多くの客に通じるのは、「会いたい人」がいること。いまや会えない、「この世から旅立たった人」。
不思議なことに、その願いはいつしか叶っているようでもある。
当人に尋ねても、はぐらかされるか、要を得ない言葉を返すばかり。
むすび屋に関わりがあるようだが、それについて確かな答えを述べる人は誰もいない……
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それもそのはず、なにせ気性が荒いのである。
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こんな店では、とっとと客が離れていきそうなものだが、妙に賑わっている。
おえんの啖呵がくせになると言うものもあれば、料理が案外悪くないんだと言うものもいる。
そう。むすび屋の料理は、たしかに旨いのだ。手がこんでいるというより、心がこもっている。決まった料理帳はなく、おえんの気まぐれ次第。頼めば茶漬けくらい出してもくれる。
ただ、唯一出さないのが握り飯だ。
なによりたやすい料理のはずだが、「そんな面倒なことやってられるかい」と頑として出してはくれない。
そんな偏屈な店のくせに、今日も客が訪れる。
おえんの口の悪さも、奥底に人の良さが見え隠れする。すべては照れ隠しの裏返しだと、常連は分かっているのだ。
おえんを手伝う娘、おはるの手助けも大きい。ちょこまかとよく動き、目端が利く。愛嬌よくころころ笑い、客をまぁまぁとなだめる。その塩梅がちょうどいいのだ。
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むすび屋の客は、いろいろだ。
風呂上がりのご隠居もいるし、身分を隠しているような二本差がいれば、泣きながら酒を飲む身重の女もいる。
誰かに連れられて訪れることもあれば、ふらりと入る一見もいる。
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