夢源谷の向こうへ

 薄暗い霞の中に、一匹の犬がいた。

 名もなき犬は、この世とあの世の狭間である「夢源谷」で、成仏できない魂たちをひっそりと見送り続けていた。

 しかし犬自身が、誰よりも長く夢源谷にいた。

 神は一向にこちらに来ない犬を心配していた。

 そして神は犬に残りの二年を与えた。

 ——お前自身の匂いを、見つけてこい——

 地上に降りた犬を待っていたのは、一人の老婆だった。

 孤独と孤独が、静かに寄り添っていく。

 初めての世界、初めての名前、初めての温もり。

 そして犬はだんだんと自分の匂いを見つけていく。

 二年が過ぎた冬、犬は旅立った。

 しかし夢源谷で待っていた。

 夢源谷の向こうへ行かずに。

 ただ、律儀におすわりをして待っていた。

 老婆が来る日まで。
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