契約書にサインをどうぞ、旦那様 ~お飾り妻の再雇用は永年契約でした~

――お飾り妻、平穏な離婚のため、契約書を用意する。


 子爵家令嬢グラディス・シャムロックは、結婚式を目前にしてバセット子爵家嫡男の婚約者・アーロンが出奔したため、捨てられ令嬢として社交界の評判になっていた。
 しかも婚約はアーロンの未婚の兄弟のうち「一番出来の悪い」弟・ヴィンセントにスライドして、たった数日で結婚する羽目になったのだから尚更だ。

「いいか、お前はお飾りの花嫁だ。これは政略結婚で、両家の都合に過ぎず……」
「状況認識に齟齬がなくて幸いです。それでは次に、建設的なお話をいたしましょう」

 哀れなお飾り妻――そんな世間の噂を裏付けるように、初夜に面倒くさそうに告げるヴィンセントの言葉を、グラディスは微笑んで受けた。
 そして代わりに差し出したのは、いつか来る離婚の日のため、お互いが日常を取り戻すための条件を書き連ねた、長い長い契約書。

「こちらの契約書にサインをどうぞ、旦那様」

 勧められるままサインしてしまったヴィンセントは、後からその条件を満たすことに苦労――する前に、理解していなかった。
 契約書の内容も。
 そして、グラディスの真意も。


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※全4話+おまけ1話です。
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