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「……。」

 少女は無言ですぅっと目を細くして今度はニヤニヤと笑い出した揺尾を睨みつけた。

「……何が言いたいのかさっぱり分からないわ。しっかりと説明してくれるかしら?」

「ん?あぁ!この『あやかし書堂』には幸運を持つ客が訪れる。ちなみに客はこの書堂が選ぶ。だが、あくまでこの書堂のあるじは我だ。だから、我が望めば我の望む客を入店させることができるし、退店できなくすることもできる。つまり、そなたは袋のネズミと言う訳だ。我に興味を持たれたのがそなたの運の尽きだな。」

 無表情のまま真っ直ぐと強気に質問した少女を嘲笑うかのように揺尾は少女に対して残酷な事実を告げた。

「……。」

 少女は無言で最後の悪あがきなのか入店した際に通った扉を確認するためにゆっくりと振り返った。だが、そこに扉は存在しなかった。まるで、最初からそこには扉が存在しなかったかのように……。

 そもそも、隔離世に存在するこの空間に現世うつしよと繋がる扉が存在していることがおかしいのだ。それに、元々全てが和風でできているこの空間に入店した際に通った扉が洋風なこともおかしいし、少女が入店した際に開けたガラスのスライドドアのデザインが、少女が『あやかし書堂』の中に入って閉めた時にいつの間にかふすまに変わっていたこともおかしい。そんな事実に少女が気がついた時には時すでに遅し、少女は完璧に揺尾の餌食になってしまっていた。

「……はぁー。……これは、私があなたにとって満足のいく回答ができたら願いを叶えて帰してくれるということかしら?」

 ある程度の事実に直面し、理解した少女は全てを諦めたかのように揺尾の言いたいことを要約した。

「あぁ、そういうことだ。それにしても、頭の良い者との会話は全てを説明しなくて済むから楽だな。どうだ?帰るのは諦めて一生我の話し相手にでもなってここにいるというのは。話し相手になってくれるのであれば、そなたにとって最高の条件をつけてやろう。」

 揺尾は美しい顔を維持の悪い悪戯っ子の表情に変えた。

「お断りするわ。私、現実でやらなければならないことが沢山あるし、突然いなくなったら困ることが山ほどあるの。」

「ふっ、残念だ。」

 揺尾は全く残念では無さそうな仕草で肩をすくめた。

*******************

読んでいただきありがとうございます😊!

少女のお名前ギリギリ出せませんでした……。
残念……。

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