上 下
10 / 24

09. 1の数字を持つ聖女と聖騎士の言い分

しおりを挟む
「リリアナ! どうして、そんな酷い事を言うんだ。あれは誤解だと言っているだろう。話を聞いてくれ」
「話を聞くも何も、あんな場面を見てしまったら気持ち悪くてしょうがないわ。聞く気にもならない」
「私は被害者なのよ!」

 フェナンの言葉に答えたリリアナに向かって、オーブリーが叫んだ。
 すると、フェナンが言い返す。

「違う! オーブリー、君が誘惑してきたんだ!」
「私のせいにしないでよ! あなたが悪いのよ!」
「旦那と上手くいっていないからと誘ってきたのは君だ!」
「嫌なら断れば良かったじゃないの!」

 喧嘩をし始めた二人を無視して、アッシュがリリアナに言う。

「オーブリーが旦那と別れたんなら、1の数字を持つ者同士が結婚で良いんじゃないか?」
「そう言われればそうね。もしかして、同じ数字を持つ者同士が惹かれ合うようになっているのかも…?」
「……そんな事は、ないと言いたいところだが、2の数字を持つ二人は付き合ってるもんな」
「という事は私は3の数字を持つ聖騎士様になるわけだけど…」

(そういえば、3の数字を持つ聖騎士様は、今は何歳になるのかしら?)

 リリアナはそんな事を考えてアッシュに尋ねる。

「3の数字を持つ聖騎士様って、今は何歳になるか聞いたことある?」
「噂では14歳だって言われてる」
「そうなの? という事は私より2つ下よね」
「とにかく、俺達は戻るか。リリアナとフェナン様の婚約も無事に解消されそうだしな」
 
 アッシュに促され、リリアナが歩き出そうとした時だった。

「ちょっと待ってくれ、リリアナ! 婚約の解消なんて僕は認めないからな! 彼女は年上すぎる!」

 フェナンがオーブリーとの言い合いを止めて、リリアナに向かって叫んだ。

(あなたが幼稚だからちょうど良いと思うけど…? と言いたいところだけど、相手は公爵令息なのよね…。だけど、私は聖女だし言いたい事を言い返してもいいのかしら?)

「私だってあんたなんかお断りだわ!」
「聖女じゃなければただの平民じゃないか!」

 また喧嘩を始めたオーブリーとフェナンに対して、リリアナが立ち止まって彼らの方に体を向けて叫ぶ。

「二人共、いいかげんにして! 私が言えるのは同じ数字を持つ者同士が結婚したら良いという話だったのなら、二人は結婚しないといけないって事よ! 好きだ嫌いだの問題じゃないの!」
「私にフェナンの子供を生めって言うの!?」
「あんな事が出来るなら生めるでしょう!?」

 オーブリーの言葉にリリアナが言い返すと、オーブリーは忌々しそうにリリアナを睨んだ後、自分の手首をもう一度見て目を輝かせる。

「消えかけていた数字がもとに戻ってるわ! アッシュ! さっきのはあなたの仕業だったのね!?」
「そんな訳ないだろ」

 オーブリーに向かって吐き捨てる様に言うと、アッシュはリリアナを促す。

「行こう」
「待ってくれリリアナ、話を聞いてくれないか?」

 フェナンに呼び止められ、リリアナは冷たい声で言葉を返す。

「何を話すことがあるって言うの? あるなら、婚約を解消してもらう事くらいだと思うけれど」
「それは無理だよ! 僕は君と相性が良いと思ってる。初めて見た時に君が婚約者で嬉しいと思ったんだ!」
「そう思うなら、どうしてあんな事を? 私が浮気を許すとでも…?」
「そうだよ! カトリーヌは許したんだ!」

 フェナンの言葉に、リリアナとアッシュは同時に眉を寄せた。

(昨日、私にフェナンを許せと言ったのはそういう事? 自分も許したから? 意味がわからないわ!)

「カトリーヌはトールの事を好きだから許せたんでしょう。私とあなたはそういう関係じゃないわ!」
「まさかリリアナ、アッシュとそういう関係に…?」

 フェナンに睨まれたリリアナとアッシュは、今度は同時にため息を吐いた。

(どうして、そんな発想しかできないのかしら。フェナンと私は恋人じゃないと言っただけじゃないの。それに、アッシュは婚約者がいる様な人間と、そんな関係になるわけがないわ)

「リリアナはそんな奴じゃない」
「アッシュはそんな人じゃないわよ」

 お互いの事を言ったのがまずかった。
 フェナンは表情を歪めて、アッシュを指差して叫ぶ。

「怪しいと思っていたんだ! 護衛だという事をいい事にリリアナを唆したんだな! 絶対に許せない! アッシュ、お前はリリアナの護衛から外れてもらう!」
「はあ?」

 アッシュは低い声を出して聞き返し、フェナンを睨んで続ける。

「リリアナの護衛に付くように言ってきたのは教会からなんだよ。魔道士協会もその方が良いと納得してるんだ。フェナン様にどうこう言われる筋合いはない」
「僕にそうやって口答えしてくる時点でおかしいんだよ!」
「聖騎士らしい事もしてないくせに、よく言えるよ」
「うるさい! お前は魔道士のくせに態度がデカすぎるんだ!」
「聖騎士のくせに、そうとは思えない行動をしてる人間に言われたくない。神がいつまでもお前らの愚行を許すと思うなよ」

 アッシュの言葉にフェナンだけでなく、オーブリーも驚愕の表情を浮かべた。

「神が僕達を見捨てるとでも…?」
「神官達から話を聞いたが、聖騎士や聖女に選ばれた時のあなた達は、今みたいな腐った性格じゃなかったと言ってた」
「そ、それは…!」

 フェナンはアッシュの言葉に言い返す事もできずに言葉をつまらせた。

 そんなフェナンにアッシュは問いかける。

「どうして、そんなに性格が変わった? 聖騎士だとチヤホヤされたからか?」
「べ、別に僕は変わってなんか…!」
「私だって変わってなんかいないわ! 変わったとしたら環境よ! あなたにはわからないかもしれないけれど、聖女は本当にストレスがたまる仕事なのよ!」

 オーブリーの言葉にリリアナは眉を寄せた。

(それってストレスが溜まったから、その発散にフェナンと浮気したって事!?)

「そんなの言い訳にならないわ!」

 リリアナが叫ぶと、オーブリーは嫌な笑みを浮かべて、リリアナを見た。

「リリアナ、あなたはまだ現場に出ていないからわからないと思うけれど、さっきも言ったけど聖女っていうのは本当にストレスがたまるのよ。いつかあなたも私達の気持ちがわかるようになるわ」

 オーブリーはリリアナに吐き捨てるように言うと、また聖女の像の前に座って祈りを捧げ始めた。

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなた方には後悔してもらいます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:3,753

イアン・ラッセルは婚約破棄したい

BL / 完結 24h.ポイント:12,460pt お気に入り:1,783

婚約者は妹をご所望のようです…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:2,732

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:3,689

【R18】 義理の弟は私を偏愛する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,525

【完結】彼の瞳に映るのは  

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,363pt お気に入り:3,811

処理中です...