アッシュ・ライン・コード~生命の気配のない世界を、男は北へ歩く~
これは正史である――
男はたった一人、生命の気配のない荒廃した世界を歩き続けていた。
灰と塵に覆われた空。崩れた都市。沈黙した機械。
かつて人類が未来を託した遺伝子データの保存領域は壊れ、より深く、より高いセキュリティに守られた階層だけが、地の底でひっそりと稼働を続けている。
男の名は、燼〈ジン〉。
この世界で、彼の存在を知る者はもういない。男は、40年歩き続けていた。若く美しい姿のままで。
男の記憶は少しずつ薄れていった。時を重ねるたび、身体が傷付くたび、かつて愛した女の声も、表情も、数日間だけ与えられた幸福の記録さえも、再生のたびに遠ざかっていく。
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