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第二章
28消せない噂
しおりを挟む一冊の本を読み、ランドルフは疲れたようにため息をつく。
(一体誰が…)
この本を誰が贈ったのか解らない。
嫌がらせにしてもこんな真似をして何の意味があるのか。
既に傾いた男爵家のすぎないオイシス家を潰しても何の利点もないのだから。
「ランドルフ…なんとかして。こんなの耐えられない」
「エミリー、大丈夫だ」
「ランドルフ…」
涙を浮かべるエミリーは何とかしてくれるのだと思い安堵するも、直ぐに地獄に叩き落される事となる。
「噂なんて気にする事はない。どうせすぐに飽きるだろう」
「ランドルフ?」
「社交界では噂なんて気にしていたらきりがなかった…それに君の名前が出されている訳じゃない。だから君も気にしないでそろそろ外に働いてみたらどうだ?」
「何を言っているの…」
「こういう時こそ堂々とすべきだ。小さい事で悩んでいても仕方ない」
ランドルフは小説の事に関しても外で流されている噂も気にしなければいいと無責任な事を言うばかりで解決策打開策も考えようとしていなかった。
時間が解決してくれると思い込んでいた。
実際社交界に出ていた頃は、悪い噂が広まってもしばらくすれば飽きて騒がれなくなったのだが、その裏で噂を消す為にカナリアが動いていた事も知らない。
貴族達の暇つぶしに噂が消えたとしても平民は別だった。
貧富の差故に貴族や、裕福な商人を憎む平民は少なく無いので面白おかしく噂をするだろう。
町でもまったくの人付き合いがまったくできていないエミリーは友人もいなかった。
ギルドとも関係が良くなく、客に対しても苦情が多くエミリーの評価は最悪だったので助けてくれる人はいなかった。
今さらキャスティ商会に頼るなんてできるはずもなく。
「どうして何もしてくれないの!ランドルフは私が外でも責められても平気なの?小説を今すぐ止めさせて…お願いよ」
「エミリー、それはできない」
「どうして!出版社に直接抗議してくれれば…」
「既に小説は出回っている。何よりそんな力はない」
ランドルフの立場上そんな真似はできないし、出版社に小説を差し押さえるには多額のお金と権力が必要になる。
「劇に関してもだ。傾きかけた男爵家ではどうする事も出来ない」
「だったら宰相様にお願いして…貴方と宰相様はお付き合いがあるのでしょう」
以前は宰相夫妻と付き合いはあったが今は王宮に出入りする事も出来ない状態だ。
「無理だ。宰相閣下との付き合いはカナリアを通じてだ」
「だったら他に…」
「他の貴族もカナリアを介してだ。僕個人の付き合いはないし…既に友人とは縁を切られている。あの挙式で」
最悪な結婚式を行った後に、ランドルフは友人達と縁を切られていた。
今ではランドルフを庇ってくれる友人はいなかったのだから。
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