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異母弟たちの処分

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 彼女たちが新たな一歩を踏み出している間に、違う人生が決まった者たちもいた。

「ディアークたちの処分も決まったんだ」
「そうですか」
「婚約のことに慌ただしくてすっかり忘れていました」

 ローゼがあっけらかんとそう言ったが、実際世間は私の立太子とハンクの求婚、レイニーたちへの熱烈な求婚劇の方に話題が集まり、彼らのことはすっかり霞んでいた。

「それで、ディアーク様は?」
「ディアークは生涯幽閉だ」

 さすがにあんな騒ぎを起こしただけに、無罪放免とはいかなかった。元凶はミリセント嬢だったとしても、一番熱を上げていたのがディアークだったから仕方がない。彼がミリセント嬢に引っかからなければ、あんなに婚約破棄が生じなかっただろう。

「王領の離宮に幽閉になった。側妃のエレナ様もディアークに付いていくそうだ。一緒に住むことは許されないが、出来るだけ近くにいたいと」
「そうでしたか。エレナ様にとってはディアーク様が心の支えでしたからね」

 エレナ様は両親の学園時代の友人で、父よりも母と仲が良かったが、世間では父とエレナ様が真実の愛だという噂があった。二人の仲を誤解した父の側近たちが一計を案じ、意に反して二人は結ばれてしまった。謀られたとはいえ純潔を奪ってしまったし、子が宿っている可能性もあるため側妃と迎えたのだと聞いている。

「エレナ様も今の生活から解放されて、ホッとされるでしょうね」
「ああ。気を使いすぎる程だったからな」

 彼女は正妃の母を差し置いて自分が王子を生んだことを常に気に病んでいた。彼女は慎ましくて正直な性格だったから、こうなったことは不本意だっただろう。

 レイリーの義弟だったイーゴンは、廃嫡されてエーデルマン公爵家との養子縁組を解消後、実家の子爵家に戻されることになった。既に兄が後を継いでいる子爵家に居場所はないので、母親の実家の男爵家に婿入りさせるという。男爵家は娘が継ぐので彼には何の権限も与えられない。それでも夫婦仲よくやっていけば幸せになるチャンスはあるかもしれない。

 ローリングは名ばかりの候補だったが、それは少しでも彼にいい婿入り先が見つかる様にとのクランベリー侯爵の親心だった。それを自ら台無しにしただけに侯爵の怒りはすさまじく、最も過酷だと言われている前線に送られるそうだ。運がよければ生きて帰れるだろう。

 彼らは私の立太子の前に王都を離れると聞いた。

「ミリセント嬢は隣国のスパイだと判明した。薬を使って令息たちを誘惑していたんだ」

 彼女はディアークと懇意になった頃から影が内々に調べを進めていたが、今回の騒ぎでようやく彼女の実家の捜査を行うことが出来たのだが、そこで出てきたのが薬だった。

「薬、ですか?」
「要は麻薬だ。飲み物や菓子に微量の麻薬を盛りながら誘惑したんだ。年頃の令息だからちょっとした接触でも胸を高鳴らせる。そこに麻薬の効果も混じって夢中にさせていたらしい」

 ミリセント嬢は娼館で育ち、その見た目と幼い頃から男を誑し込む能力を見込まれて、隣国のスパイに利用されていた。

「じゃあ、離れたら正気に戻ったというのは……」
「麻薬の効果が薄れたからだろう、というのが医師たちの意見だ」

 状況が明らかになれば、こんな簡単なハニートラップに引っかかるなんて……と思わなくもないが、彼らに隙があったからだろう。外では何も口にしてはいけないという高位貴族のルールを自ら放棄していたのだ。彼らは多分、ミリセント嬢の甘い言葉を信じたかったのだろう。彼らの劣等感や負い目がそうさせたのかもしれない。

「実際のところ、ミリセント嬢がゲーベル伯爵の実子かはわからないらしい」
「ええっ? なのにどうして?」

 彼女はゲーベル伯爵の庶子で、母親は娼館の高級娼婦だと言われている。彼女はスパイによって伯爵家に連れていかれて、娘として迎え入れられた。伯爵の正妻は子を成さぬまま半年前に亡くなっていたからだ。

「伯爵は、実子だと信じたかったのでしょうね」
「だろうな。伯爵は子が出来ない種無しと言われていたそうだ。だから嘘でも実子だと信じたかったのかもしれない」

 既に養子を迎える話があったが、それを蹴ってミリセント嬢を実子として迎えたという。信じたいことが目の前にあったから彼はそれに手を伸ばした。だがその選択の結果が、娘と自身の処刑と伯爵家の取り潰しだなんて思いもしなかっただろう。

「それで、ミリセント様は罪を認めているのですか?」
「いや、自分は何もしていない、麻薬なんて知らないと言い張っているらしい。実際彼女の部屋からは麻薬が入ったお茶や菓子だけでなく、隣国のスパイとの手紙も見つかっているのだが……」
「反省する気はないということですか?」
「ああ。自分こそ被害者だと言っているそうだ」

 報告書には自らスパイに自分を売り込んだとも書かれてあった。彼女は娼館での生活から脱出して、贅沢でちやほやされる生活を送りたかっただけだと言っていた。そんなことのために何組の婚約が破棄され、泣きを見た令嬢や家があったことか。貴族間に無用な対立と恨みを残しただけに、彼女の極刑は免れようもなかった。


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