僕が実家の猫の名前を覚えた理由
愛猫家の母の家に「僕」は年に盆と正月の2度帰省する。父の他界後、日々の憩いにとずっと猫を飼い続けていた母だったが、老齢もあって気に入っていた猫の死を最後に「もう猫は飼わない」と宣言した。ところが愛猫家の性は尾を引き、なかなか猫離れができない。その性がもたらす結果を夏の帰省時に目の当たりにすることになる。
この物語は「猫を飼わない宣言」直後に実家にやってきた猫と、どのようにして「僕」が交流を深めていったかを追う。
猫は嫌いでなかった「僕」だったが、これまでの猫はちっともなつかなかった。だから歴代の猫の名も顔も覚えたことはない。なつかない猫に愛着はわかない。新しくやってきた茶トラで白い4足のソックスを履いたタロウも、最初のうちはほかの猫と変わることなく、他人を見れば不信感に驚愕を混ぜたマナコを最大限に見開き、一目散に家の隅や押し入れの奥に身を隠していた。
タロウは大型だが、多毛種で本来は痩せていると母がいう。押し入れの隅に追い詰め首根っこを押さえて無理やり抱くと、死に物狂いで逃げ出そうとする。撫でると、毛がぼろぼろと抜ける。母は「あまり撫でなさんな」と僕を窘めるのは、抜ける毛の処理がやっかいだったからだった。
そのタロウがある日根負けしたのか、腕の中で警戒心を解いた。
猫派が猫にしてやられるのは、猫の甘え方にあるといっても過言ではなく、その甘え方には個性がある。「僕」がしてやられた甘え方にも独特の特徴があった。
そのタロウが「僕」の次の帰省を待つことなく死んだ。「僕」はついになついた猫に思慕を募らせ、毛が抜けるからと撫でることを避けてきた母は、あまり甘えさせてこなかったことに悔恨を残した。「僕」が生涯忘れないだろうタロウには、二人の思いが編まれている。
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