炭火の夜、潮の香りに灯る店 〜異世界港町グルメ、元冒険者が営む炭火居酒屋〜

潮の匂いが、暮れなずむ町にゆるやかに満ちていく。
港町ルアーナ。
その一角、名もない居酒屋の火が、今宵もまた静かに灯る。

店を預かるのは、かつて剣を振るった男──ベネリオ・ファルカ。
冒険の時代を過ぎ、今は炭を起こし、魚を焼く。
潮と火の香りが交わるとき、人もまた、何かを交わしにやってくる。

誰もが、ひと皿の料理とひとときのぬくもりを求め、
朱色の庇の下に腰を下ろす。
火を囲み、語らずとも伝わるものがある。
それは潮の記憶、焦げ目の香り、季節の影。

変わらぬ炭火のなかで、変わりゆく心がぽつり、ひとつずつほぐれていく。

──これは、名もない店と、その夜ごとの物語。
潮の香りに引かれ、誰かがまた、戸を開ける。


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