狂気の缶詰

 十年ぶりで、親友が訪ねてきた。
 月の明るい晩だった。
 彼は僕に缶詰を差し出して言った。

「これを預かってほしい。お前にしか頼めないことだ。よろしく頼む」

「頼むと言われてもなあ。これ、中身は何なんだい?」

 参ったなと思いながら、僕は鼻をすすり、缶詰を見下ろした。

「中身は……」

 言いかけて、親友はしばし黙り込んだ。
 月明かりの中、僕は彼の沈黙に付き合った。

「中身は、俺の狂気だ」

 まるで舞台の台詞のようだった。
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