猫獣人の私と狼獣人の彼ー雨の日の運命ー
宵闇が街を覆う頃、冷たい秋雨が石畳を濡らしていた。
薄暗い路地の奥、小さな古書店の軒下で、ミアは肩をすくめて雨宿りをしていた。
華奢な体にまとった大きなコートからは、ふわふわとした灰白色の猫耳が覗き、緊張でぴんと尖っている。
尻尾はコートの裾の中で不安そうに丸まっていた。
猫獣人の血を引くミアは、生まれつき体躯が小さく、他者との関わりを好まない。獣人たちの社会では「番(つがい)」という絶対的な運命が存在することを知っていたが、自分には無縁のものだと信じ切っていた。
何より、強靭な肉体と圧倒的な存在感を持つ他の獣人たちが、繊細で警戒心の強いミアにとっては恐怖の対象でしかなかったからだ。
「……早く止まないかな」
ぽつりと漏らした声が、濡れた水たまりに吸い込まれていく。
そのとき、背後の路地から足音が近づいてきた。
足音は静かだが、地面を踏みしめる重みが違う。
危機感を覚えたミアの猫耳がピクと動き、全身の毛が逆立った。
逃げようと足を踏み出した瞬間、強烈な「匂い」が雨の匂いを切り裂いてミアの鼻腔を突いた。
深い森の奥、濡れた土と針葉樹、そして冷たく澄んだ冬の風のような——圧倒的な威厳を孕んだ狼の匂い。
「見つけた」
低く、地鳴りのように響く声。
振り返る間もなく、ミアの視界は漆黒の影に覆われた。
そこに立っていたのは、身丈も肩幅もミアとは比べものにならないほどの狼獣人の男だった。
銀灰色の毛並みを覗かせる耳、鋭く光る琥珀色の瞳。
彼が放つ圧倒的な捕食者のオーラに、ミアの身体は恐怖で竦み、動けなくなった────。
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「見つけた」
低く、地鳴りのように響く声。
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