枳殻のささやき

精密機器製造会社の社内で、信望厚く重役を約束されている52歳の君原秀作技術部部長と、若手社員との日常の交流に、君原秀作の旧友であるふたりの女性が絡らんで行く。
優しくて面倒見の良い部長と称される君原秀作は、多くの社員から慕われる部長として、社内で知らない者はいなかった。
若い社員達は、所属部課を問わず、優しく声を掛けてくれる秀作の元に寄ってきた。
秀作と親交を持った若い社員たちは、互いに横の付き合いを深める。その付き合いが恋愛に発展することも少なくなかった。

或る日、秀作はデパート店内のティーサロンで、美麗な女性に目を引かれた。グリーンの万年筆で耳を触る癖と、両目じりの黒子が記憶を蘇らせた。
故郷の中学時代、校内で人気を二分していた女生徒のひとり、西瑞穂と遭遇したのは、三十七年ぶりのことだった。

秀作の勤める職場で評判の良くない泉田祥子は、父親の伝手で入社していた。秀作は、後になって泉田祥子が西瑞穂の娘だと知る。
中学時代に人気を二分していた、もうひとりの女生徒、水沼友香理は、夫を亡くしたあと、人材派遣会社カズホを起業して社長に就いていた。
秀作の職場に派遣会社カズホから派遣された社員がいた。派遣社員を本採用にする話が出たとき、秀作はカズホの吉岡社長と会った。その社長が旧姓水沼友香理だった。

技術部から営業本部に移り、優秀な社員として嘱望されていた吉岡賢一が、水沼友香理の息子だと周作が知ったのは、派遣会社の吉岡社長が水沼友香理だと知ってからのことだった。
西瑞穂と水沼友香理から苗字の変わった泉田瑞穂と吉岡友香理と出会い、秀作はふたりの生きざまを、社員でもあるその娘と息子を通して知ることになる。

秀作は大学時代からの親友、桜井雄一が妻を亡くしたことを憂慮していた。
雄一と、母を亡くして鬱になっていたひとり娘の幸乃の将来に、秀作の家族は手を差し伸べる……。
秀作は、伴侶を亡くした同世代の友人達のために心を砕くが、意に沿わず、幸せから遠ざかって行く友もいた……。(全てフィクションです。)
   
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