笑う魚
海鳴町。三方を断崖に囲まれたその僻村には、古くから忌まわしい言い伝えがある。
――「水葬で海に還せぬ者は、嗤い魚となって陸へ這い戻る」
両親の死を機に、数十年ぶりに故郷の土を踏んだ旭優斗。彼を待ち受けていたのは、かつて捨て去ったはずの記憶と、湿った畳の裏に潜む「嗤い魚」の気配だった。
村を覆う粘り気のある湿気。
排水溝から滴るどす黒い海水。
そして、鏡の中の我が顔に刻まれゆく、魚のごとき裂け目。
村人たちが隠蔽してきたおぞましき罪の記憶を食らい、嗤いながら獲物を同化せんとする異形の群れ。優斗は理解する。自分は遺品整理に戻ったのではない。この村という巨大な胃袋に、再び嚥下されるために帰ってきたのだと。
逃げ場なき閉塞感の果てに、優斗を待つ結末とは。
湿り気と生理的嫌悪が脳髄を浸食する、因習ホラー。
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