「しんすけ!」

 僕を下の名前で呼ぶのは、君だけだった。


 ――昭和59年。広島。

 小学四年生の「僕」は、男たちの粗野な群れが苦手だった。

 ひんやりとした六角形の図書館の片隅で、ただ一人、世界のノイズから逃れるように本を探していた。

 そんな僕を、土埃の舞う眩しい校庭へと引っ張り出す友達がいた。


 大人になる前の、あの無防備で残酷な季節。

 やがて僕たちは、ファミコンソフトの貸し借りをきっかけに、取り返しのつかないうねりへと飲み込まれていく。


 僕の名を呼ぶ君の声が、今でも鼓膜の奥で鳴り響いている……。

 最後の季節に経験した、残酷で美しい喪失の物語。


※本作は著者の過去の実体験を元にした私小説です。昭和59年の広島の情景や、少年たちの間で起きた主な出来事は、事実に基づいています。
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