影法師は笑わない

前世で詐欺師だった男は、死に、転生した。
 和風異世界・霞津。霧と情報と裏切りが流通する港都市で、影無と名乗るその人物は人目を避け、気配を消し、誰にも存在を知られることなく三年を過ごしてきた。
 ただし——前世で自分が追い詰め、死なせた者たちに似た人間が傷つけられそうなとき、影無は動く。顔を変え、名を変え、それが本当に贖罪なのか自己満足なのか自分でも判断できないまま、密かに、その手を伸ばし続ける。
 能力を使うたびに、感情が摩耗する。
 感情が消えていけば、精霊・澪の声も、やがて消える。
 感情がすべて消えたとき、影無は何のために動いているのか——もはや知る術もなくなる。
 これは勝利の物語ではない。
 成長の物語でも、ない。
 罪を抱えた人間が、罪と同じ形をした善意を使いながら、少しずつ人間でなくなっていく——その過程を、静かに、丁寧に描く。
 「そう思っていた」と、影無はいつも思う。
 本当にそうなのかは、誰にもわからない。
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