零の定理

目が覚めると、世界が「式」に見えた。

神が数式で設計した閉鎖宇宙《閉域Ω》。
その中に、性別も感情も肉体も持たない
概念体として転生した元数学者——《零》。

《零》の目には、世界の根底を走る
設計式がすべて見えている。
書き換えることも、できる。

ただし代償がある。
式を一つ解くたびに、記憶が一つ消える。
かつて自分が何者だったか、
もうほとんど覚えていない。

神殿の石板に、誤った式があった。
訂正すれば世界は少し良くなる。
しかし《零》は手を止めた。

——この誤りは、意図的なものかもしれない。

神の設計意図を解明するまでは、何もしない。
たとえその不作為が、誰かを傷つけるとしても。

善悪ではなく、正誤で動く孤独な知性が、
神話の閉域を静かに、
取り返しのつかない速度で、解いていく。

※哲学SF・実験的文体・悲劇エンド志向の作品です。
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