「し」の検索結果
全体で219,154件見つかりました。
三つの名前を持つ少女がいる。
マリア,梅,美玲。
ポルトガル人の父と,日本人の母の間に生まれ,寧波で育ち,今は平戸の商家に身を寄せている。十八歳。どの国にも,どの旗にも,属さない。
言語は武器だ。日本語,中国語,ポルトガル語を操り,港で通訳として生きている。しかし言葉を運ぶ者は,荷を持てない。どの言葉も完全に自分のものではなく,どの岸にも根を張れない。孤独と自負が,同じ形をして,胸の内に住んでいる。
ある夜,かつて父の仲間だった海商の配下が接触してくる。石見銀のマカオへの輸送,その橋になれ,という申し出。断る理由は,ない。受ける理由も,まだ,ない。
三日,考えた。
海を見た。波が来て,砕けて,返るのを,見た。
受けた。
その選択が,六年間消息を絶っていた父との再会へ,そして自分がこの海に存在することの意味へと,マリアを引っ張っていく。
父は,生きていた。南の海の,どこかに。
父が残したアストロラーベには,途中で終わった目盛りがある。続きを,お前が刻けばいい,と父は言った。
橋は,二点を繋ぐ。しかし結び目は,複数を繋ぎ続ける。
どこにも属さないことは,欠損ではない。どこへでも行けることだ,とマリアは,この航海で,少しだけ,信じ始める。
16世紀の東アジア海域。銀が動き,言語が混ざり,国家の枠組みが意味をなさない「海民のネットワーク」の中で,一人の少女が,自分の地図を刻き始める物語。
文字数 83,450
最終更新日 2026.05.07
登録日 2026.04.15
舞台は文政年間、八百八町が最も華やいだ時代の江戸。
両国広小路に近い長屋で、貸し物屋(損料屋)『九十九屋(つくもや)』を営む慎蔵(しんぞう)は、江戸のあらゆる階層に生活道具を貸し出し、回収する日々を送っている。
しかし、彼には人知れぬ「裏の顔」があった。回収した古道具の中から「人の執念」が染み付いた品を選び出し、特製の凸凹レンズを組み合わせた「からくり幻燈機」で、その持ち主の歪んだ本性を障子に投影して眺める――。そんな覗き見の悦楽に耽る、倒錯した観察者だったのである。
文字数 20,255
最終更新日 2026.05.20
登録日 2026.05.19
深川の八幡宮で宮司見習いを務める九条と、幼き日の神輿蔵火災のトラウマから、天才的な将棋の才能を心に封印してしまった美少女・菊。孤立無援の二人のもとに、向島の豪商・覆面魔王と自称する人物から、黄金五百両を賭けた盤上勝負の招待状が届く。
嵐の吹き荒れる隅田川を渡り、巴屋の豪華絢爛たる下屋敷「漣翠荘」へと足を踏み入れた二人を待ち受けていたのは、金と欲の泥に塗れた、尋常ならざる訳ありの男女たちだった。
極貧に喘ぐ武士夫婦、博打で身を持ち崩した彫金師とその妹、借財に追われる浪人とその可憐な許嫁。九条を除いた彼らは全員、あの忌まわしい火災の夜の記憶を共有する、同じ寺子屋で、ほんの数日将棋学校に通う者たちであった。さらにその座には、男女の業をねっとりとした視線で見つめ、画帳に炭を走らせる謎の天才絵師・東洲斎写楽の姿もあった。
屋敷の特別室には覆面の主催者が「誰にも邪魔されぬ敗者のための完璧な部屋」と呼んで不敵に笑う。将棋大会の勝者には大金が与えられ、敗者には、特別室で浮世絵の題材になることが科せられる。ただの浮世絵の題材ではなくその特別室は危な絵が描かれていたのだ。
日本刀で自らの腹を召した淒惨な男の骸。そして、その男の目の前で、この世のものとは思えぬ秘薬と道具によって陵辱し尽くされ、絶頂の果てに吊るされた女の骸。
天井裏の狭い隙間に身を潜め、血生臭い地獄の嬌声と肉体の交わりを五感で知ってしまった九条と菊は、恐怖のなかで底なしの背徳的快楽へと突き動かされていく。謎深き巴屋の真の狙いとは、そして写楽が隠し持つ妖艶な秘密とは何か。盤上の駒のように狂わされていく人間たちの、血と淫靡に染まった歴史時代小説。
文字数 7,561
最終更新日 2026.05.26
登録日 2026.05.24
天正四年。
播磨国美嚢郡三木。
別所吉親、波夫妻は、領民の信頼と一族の誇りを胸に立ち上がった。
三木の地を舞台に戦場を駆ける夫妻。
立ちはだかる敵は後の天下人、羽柴秀吉。
思惑と意地とが衝突する三木合戦が、ここに始まりを告げる。
文字数 101,253
最終更新日 2025.05.19
登録日 2025.05.01
文字数 555
最終更新日 2026.05.30
登録日 2026.05.30
【あらすじ】
「私」――矢代幸雄は、知己である松方幸次郎に連れられて、パリ郊外ジヴェルニーのクロード・モネ邸へとおもむく。松方幸次郎は、のちの西洋美術館の元となる、「松方コレクション」にモネの画を加えようと思っていた。
だが、最近のモネは高齢のためか、その描く色もあまり良くないという噂があった。
そしてモネが描くところを見た「私」は、やはりその色が「変」だと感じ、小さな勇気を出して、モネにそれを告げ……。
文字数 6,959
最終更新日 2025.06.30
登録日 2025.06.30
戦国末期から江戸にかけての剣豪、柳生宗矩(やぎゅうむねのり)。彼の活躍を三つ、「三番勝負」ということでお送りします。
【一番 邂逅】
慶長5年10月1日、石田三成、斬首。
その首は三条河原に晒されていた……まるで「捨てられた」かのように。
やがて日が経ち、骨が見えるまでになったその首を弔わんと――あらわれた僧侶が二人。
その二人の僧侶――大徳寺住持・春屋宗園と弟子の宗彭――の前に、立ちふさがる剣士がいた。
柳生宗矩である。
【二番 鶚鷹(みさご)飛ぶ時 ~大坂夏の陣、岡山口の戦い~】
慶長20年5月。大坂の役(大坂の陣)の夏の陣が始まった。将軍家兵法指南役・柳生宗矩は、同じく警固役の「九州の鶚鷹(みさご)」 立花宗茂と共に、将軍・徳川秀忠につき従って岡山口に来ていた。徳川は大軍で、勝ちは見えていた――かのように思えたが、大坂方・大野治房の奮戦により、秀忠とその軍は強襲される。
そしてその隙を――十人の刺客が襲う。
宗矩は剣を抜いた。宗茂と共に。
【三番 ほろ酔い幻想記 ~柳生宗矩(やぎゅうむねのり)の或る正月~】
柳生宗矩は、幕府に逆らった禅僧・沢庵宗彭(たくあんそうほう)を許してもらうよう、徳川家光に歎願状(たんがんじょう)を出していた。
正月、いっこうに返事を寄越さない家光にしびれを切らした宗矩は、単独での謁見に望んだ。
家光は改めて歎願状を読むから、それまで待てと言い、宗矩は平伏して待った。
ところがその耳に、つま先立ちして歩く跫(あしおと)が聞こえ……。
文字数 12,559
最終更新日 2025.06.03
登録日 2025.05.31
【あらすじ】
(第一章 芭蕉 ~旅の始まり~)
天和三年。天和の大火のため、甲斐谷村藩家老・高山繁文を頼って、松尾芭蕉は江戸から甲斐、谷村(やむら)に居を移していた。芭蕉は田舎暮らしに満足していながら、なにかたりないと感じていた。やがて芭蕉は江戸に戻り、かつての知己であった八百屋お七のことを機縁に、惣五郎という人物と出会う。惣五郎と、お七のことを話すうちに、芭蕉はある気づきを得る。その気づきとは、やりたいことがあれば、命懸けでやってみろ、という気づきだった。
(第二章 花が咲くまで初見月。)
松尾芭蕉と共に「おくの細道」の旅に出た曾良。彼は句作に悩んでいた。観念的に詠んでしまう自分の句を変えようと模索していた。芭蕉はそんな彼を見て――句を詠んだ。
(第三章 その言葉に意味を足したい ~蝉吟(せんぎん)~)
松尾芭蕉は、「おくのほそ道」の旅の途中、出羽の立石寺(山寺)に立ち寄った。その時、あまりの蝉の声に、弟子の曾良は苦言を呈す。だが、逆に芭蕉は何も言わず、回想に浸っていた。かつての主君であり友である藤堂良忠のことを。良忠は己を蝉にたとえ、その蝉の如き短い生涯を終えた。以来、蝉の鳴く声に、意味はあるのかという想いを抱く芭蕉。そして己の俳諧の「行き先」を求め、旅に出て、山寺に至り、蝉の声を聞いた芭蕉は――良忠に向けて、一句詠んだ。
【表紙画像】
Morikawa Kyoriku (1656-1715), Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
文字数 18,581
最終更新日 2024.06.07
登録日 2024.05.31
【あらすじ】
(第一章 真新しい靴がステップ ~竜馬、寺田屋にて遭難す~)
慶応2年1月23日(1866年3月9日)深夜2時、坂本竜馬とその護衛の三吉慎蔵は、寺田屋に投宿していたが、そこを伏見奉行の捕り方に襲撃される。
辛くも寺田屋の外へと逃れる竜馬と慎蔵だったが、竜馬が負傷により動けなくなり、慎蔵は決死の覚悟で伏見薩摩藩邸へと走る。
慎蔵は薩摩藩邸の手前まで来たところで、捕り方に追いつかれてしまう。
その時、藩邸から、ひとりの男が歩み出て来た。
中村半次郎という男が。
(第二章 王政復古の大号令、その陰に――)
慶応3年11月15日。中岡慎太郎は近江屋にいた坂本竜馬を訪ね、そこで刺客に襲われた。世にいう近江屋事件である。竜馬は死んでしまったが、慎太郎は2日間、生き延びることができた。それは刺客の過ち(ミステイク)だったかもしれない。なぜなら、慎太郎はその死の前に言葉を遺すことができたから――岩倉具視という、不世出の謀略家に。
(第三章 見上げれば降るかもしれない)
幕末、そして戊辰戦争──東北・北越の諸藩は、維新という荒波に抗うべく、奥羽越列藩同盟を結成。
その同盟の中に、八戸藩という小藩があった。藩主の名は南部信順(なんぶのぶゆき)。薩摩藩主・島津重豪(しまづしげひで)の息子である。
八戸藩南部家は後継ぎに恵まれず、そのため、信順は婿養子として南部家に入った。それゆえに──八戸藩は同盟から敵視されていた。
四方八方が八戸藩を敵視して来るこの難局。信順はどう乗り切るのか。
【表紙画像】
「きまぐれアフター」様より
文字数 20,798
最終更新日 2024.06.07
登録日 2024.05.31
【あらすじ】
フランス王フィリップ二世は、イングランドとフランスの西半分を支配するプランタジネット朝から、フランスの西半分を獲得しようと画策していた。プランタジネット朝の王妃であるアリエノール・ダキテーヌは、かつて、フィリップの父のルイ七世の王妃だった。アリエノールの生んだリチャード獅子心王を、そしてジョン欠地王相手に謀略をめぐらし、ついにブーヴィーヌの地で決戦を挑み、フィリップは勝利と共に「尊厳王」と称せられるようになる。
【表紙画像および挿絵画像】
オラース・ヴェルネ, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
文字数 10,286
最終更新日 2024.06.04
登録日 2024.05.31
【あらすじ】
古代ギリシア―― 都市国家(ポリス)スパルタ率いるペロポネソス同盟により、ギリシアは支配されていた。都市国家(ポリス)テーバイは、スパルタの命ずるままに、その精鋭部隊・神聖隊(ヒエロス・ロコス)を戦地へと送った。
その神聖隊の中に、ふたりの若者――エパイメノンダスとペロピダスがいた。
やがてペロピダスとエパメイノンダスはクーデターを起こしてテーバイの政権を奪取し、テーバイをスパルタの支配から解放した。
やがてスパルタとテーバイは激突する――その戦い、「レウクトラの戦い」において、スパルタの無敵の密集方陣(ファランクス)に、斜形陣(ロクセ・ファランクス)で挑む。
【表紙画像】
Megistias, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
文字数 10,040
最終更新日 2024.06.03
登録日 2024.05.31
【あらすじ】
今は昔、戦国の世の物語――
父・北条氏綱の死により、北条家の家督を継いだ北条新九郎氏康は、かつてない危機に直面していた。
領国の南、駿河・河東(駿河東部地方)では海道一の弓取り・今川義元と、甲斐の虎・武田晴信の連合軍が侵略を開始し、領国の北、武蔵・河越城は関東管領・山内上杉憲政と、扇谷上杉朝定の「両上杉」の率いる八万の関東諸侯同盟軍に包囲されていた。
関東管領の山内上杉と、扇谷上杉という関東の足利幕府の名門の「双つの杉」を倒す夢を祖父の代から受け継いだ、相模の獅子・北条新九郎氏康の奮戦がはじまる。
文字数 215,176
最終更新日 2023.06.26
登録日 2023.05.17
【あらすじ】
幕末のある日、調子に乗り過ぎた岩倉具視は(主に公武合体とか和宮降嫁とか)、洛外へと追放される。
切歯扼腕するも、岩倉の家族は着々と岩倉村に住居を手に入れ、それを岩倉の幽居=「ねぐら」とする。
岩倉は宮中から追われたことを根に持ち……否、悶々とする日々を送り、気晴らしに謡曲を吟じる毎日であった。
ある日、岩倉の子どもたちが、岩倉に魚を供するため(岩倉の好物なので)、川へと釣りへ行く。
そこから――ある浪士との邂逅から、岩倉の幽棲――幽居暮らしが変わっていく。
【表紙画像】
「ぐったりにゃんこのホームページ」様より
文字数 7,245
最終更新日 2023.06.23
登録日 2023.06.19
【あらすじ】
文政三年。歌舞伎役者、三代目・坂東三津五郎(ばんどうみつごろう)は悩んでいた。演目「玉兎(たまうさぎ)」にて、兎、爺、婆、狸の四役の演じ分けをしなければならないからだ。二代目・坂東三津五郎に相談すると「――黒き鏡だ」という答えが返って来た。
思い余って「根岸のご隠居」こと絵師・酒井抱一(さかいほういつ)のいる根岸・雨華庵(うかあん)へと赴く。
幕府名門・酒井家出身の抱一との洒脱で含蓄のある会話から、三津五郎は「黒き鏡」の意味に思い当たり、「玉兎」の舞台へ向かう。
酒井抱一が観るその舞台にて、三代目・坂東三津五郎は「玉兎」を演じられるのか――。
【登場人物】
三代目・坂東三津五郎:歌舞伎役者。父の初代・坂東三津五郎の死の際に幼かったため、父の弟子が二代目・坂東三津五郎となるが、成長して三代目を襲名。その演技は、江戸随一と評判が高い。日本舞踊五大流派のひとつ「坂東流」の祖でもある。
酒井抱一:絵師。江戸幕府の名門・酒井家の出身。しかし世継ぎとなることはできず、出家して隠居する。出家前から芸術に志し、特に絵画に熱中し、出家後は江戸郊外・根岸に雨華庵という庵を結び、巨匠・尾形光琳の遺された作品から大いに学ぶ。のち、江戸琳派という、光琳の流れをくむ絵の流派の祖となる。
※文中の歌は、二代目・桜田治助の作詞によるものです。
【表紙画像】
初代歌川豐國 / Toyokuni Utagawa I, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
文字数 4,579
最終更新日 2023.05.31
登録日 2023.05.29