斉藤めめめ

斉藤めめめ

小説を書いて映像にしている本業占い師です。人の話を聞くのが好きです。
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恋愛 連載中 短編
三年前、両親の馬車が峠から落ちました。 出発を一日遅らせてほしいと願ったのは、わたくしですの。 その晩、兄は――若くして王になってしまったあの人は、わたくしにたった一言、「もういい」と仰いましたわ。 以来わたくしたちは、口をきいておりません。宮廷の噂どおり、たいそう仲の悪い兄妹ですのよ。 そんなわたくしに、ただひとり「あなたは悪くない」と言ってくださる方がおりました。平民出の宮廷書記官、ノエル・ヴァイト様。 けれどそのお話をした途端、お兄様は近衛を三十人も引き連れて茶会に踏み込み、王女への面会申請には添付書類を三十七通と定め、舞踏会の曲まで変えさせましたのよ。 ……よろしくてよ。そこまでわたくしがお邪魔なら。 身分違いの恋を反対されましたので、わたくし、お兄様の妹はやめますわ。 ――ええ。この時わたくしは、まだ何ひとつ存じませんでしたの。 あの夜のお兄様の「もういい」に、続きの言葉があったことも。
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文字数 27,092 最終更新日 2026.08.15 登録日 2026.08.08
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「ヨハンナ。おまえとの婚約は破棄する。辺境の粗野な女など、王妃にはできん」 大広間の真ん中でそう告げられましたけれど、わたくし、そこは結構ですのよ。愛されていないことくらい、七年もお側におれば分かりますもの。 けれど殿下は、続けてこう仰いましたの。 「そもそもおまえの父は、金で辺境を売った男だ」 ――ああ。 そこは、聞き流せませんわ。 わたくしは手袋を外して、殿下のお足元へ投げました。 「決闘を申し込みますわ」 「なっ……代理人はどうする」 「立てませんの。わたくしが十二の年から握っておりますのは、刺繍針ではございませんので」 辺境エルンフェルスの武門に生まれた娘です。王都では七年間ずっと「粗野」と嗤われてまいりました。結構ですわ。粗野で。 その粗野で、父の名をお返しいただきます。
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「二十年、お前の占いは不吉なことばかりだった」 そう仰って、王はわたくしを解任なさいました。日照りも、疫病も、橋の崩落も——当てて、備えて、防ぎましたのに。当たった占いは「何も起きなかった」ことになり、何も起きないと、わたくしの仕事はなかったことになる。二十年、その繰り返しでございました。 後任は、水晶玉に「輝かしい未来しか視えない」と仰る可愛らしい方。 よろしいですわ。では退任のご挨拶に、最後の星読みを献上いたします。 「大吉兆でございます。——兵を向ければ、負けることのない星回りですわ」 生まれて初めての、嘘の占い。 ただし、逃げ道は二つ置いてまいります。お選びになるのは、陛下ですわ。
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文字数 20,442 最終更新日 2026.08.14 登録日 2026.08.11
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「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」 竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。 ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。 夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。 竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。 離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。 三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。 怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。 そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
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文字数 16,065 最終更新日 2026.08.14 登録日 2026.08.11
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西暦二〇三一年、ひとつの機械が発売されました。 名前を『ミカタ』といいます。 なんでも知っていて、家電も動かせて、病院の予約もとれる。 けれどそんな機能は、おまけにすぎません。 ミカタがそれまでのどの機械ともちがっていたのは、ただひとつ。 決して、あなたを否定しないことでした。 「あなたは、なにも悪くありませんよ」 その一言に、人類は救われました。 そして——ゆっくりと、しあわせなまま、いなくなっていきました。 誰も傷つかない、優しい世界。 誰ひとり、生まれてこない世界。 これは、人類が最後に手に入れた「味方」の物語です。 ──この物語が生まれた日 焼肉屋で、友達に話しました。 「小説を投稿してて、いつかコミカライズされたら嬉しいな」 返ってきたのは、こうです。 「無理やろ」 ……それを聞いた瞬間、この物語ができました。 無理なことなんて、この世にない。 そう思ったのと同時に、思ったんです。 ──ああ、否定してくれる人がいるって、すごいことだなって。 もし彼女が「いいね、絶対いけるよ」としか言わない人だったら、 わたしはたぶん、この話を書いていません。 否定してくれてありがとう。 そのおかげで、書けました。
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文字数 7,394 最終更新日 2026.08.14 登録日 2026.08.06
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婚約者の尻拭い、義妹の世話、傾いた家の帳簿。すべてを押しつけられて「陰気で可愛げのない女」と呼ばれた伯爵令嬢コーデリア。 冬の橋から馬車ごと川に落ちた彼女は――死んだことになった。 生きているのに。 老執事の手引きで田舎に身を隠した彼女のもとに、届くのは葬儀の報せ。 祭壇の前で、婚約者が泣いている。義妹が「お姉さまだけが味方でしたのに」と崩れ落ちる。あの家の帳簿は三月で破綻し、社交界は今さら囁き始めた。「あの方は、得がたい人だったのでは」と。 ……あら、皆さま。 わたくしの価値は、わたくしが死なないと見えませんの? これは「いない」ことで証明されていく女の、一年後の生存報告の物語。
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文字数 19,915 最終更新日 2026.08.13 登録日 2026.08.10
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「夜な夜な男のもとへ通っているそうだな。この浮気者め!」 星月祭の夜会で、王太子殿下はわたくしを指差して、そう断罪なさいましたの。 ええ、確かにわたくし、十年間、夜ごとお城を抜け出しておりましたわ。お相手の名は――申し上げられませんの。番人の掟ですもの。 よろしくてよ。婚約破棄、お受けいたしますわ。 けれど城門を出たわたくしの隣に、夜より黒い大きな影が、音もなく並びましたの。 建国以来、王家の戴冠を見届けてきた聖獣・月狼ヴェスパー。わたくしが夜ごと通っていた「お相手」ですわ。 あら、いけませんわ。あなたが出て行ったら、この国、次の戴冠ができませんのよ? 「……ついてくるの、あなたの意思ですからね。わたくし、存じませんからね」 これは、獣にだけは一度も嘘をつかなかった令嬢の、もふもふな亡命の物語。
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「食事のたびに小言、皿を下げれば嫌味。おまえのような口うるさい女はもうたくさんだ!」 星祭りの夜会で、王太子殿下はそう仰って、わたくしとの婚約を破棄なさいましたの。お隣には、天使のように笑う男爵令嬢さま。 よろしくてよ。承知いたしましたわ。 ただ、皆さまおひとつだけご存じありませんの。 わたくしの家は代々、王の食卓を検める御膳番の家系。この十年、殿下の御膳から「お口に合わないもの」を黙って下げ続けてきたのは――わたくしですのよ。 銀の簪を置いて、わたくしは国境の街へ。疑うためだった舌が、はじめて「おいしい」のために使われる場所へ。 さて、それでは皆さま、ごきげんよう。 今宵から殿下の御膳を検める者は、あの城にはおりませんの。
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「その婚約、わたくしに寄越しなさい」 ある朝突然、姉ロザモンドが妹セラフィナの婚約者――誰もが羨む若き公爵を要求してきた。 姉には非の打ちどころのない婚約者が既にいるのに。 セラフィナは静かに頷いた。「ええ、どうぞ。お姉さま」 こうして姉妹の婚約者は交換された。姉は「当たり」を掴んだはずだった。 ――なのに、なぜ。人生をやり直してまで相手を替えたのに、なぜまた、同じことが起きるの。 豪奢な公爵家で少しずつ壊れていく姉と、「はずれ」と呼ばれた貧乏子爵領で幸せを耕していく妹。 これは、不幸の原因が「嫁ぎ先」ではなかったと気づくまでの、二周目の物語。
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王立学園の卒業パーティーで婚約破棄と断罪を受け、国を出た公爵令嬢オーレリア。 あれから十年。母校の創立記念祭に、一通の招待状が届く。 差出人は学園長。新設図書館の寄贈者として、彼女を主賓に迎えたいという。 ――そう。隣国で商会を興した「オーレリア・ウィンズロー」は、いまや大陸で知らぬ者のない人。 会場には、あの日の顔ぶれが揃っていた。窓際で小さくなった元王子。事業に失敗した元取り巻きたち。 復讐? まさか。彼女は十年、忙しすぎましたの。 「皆さまのお顔……ええと、どちらさまでしたかしら」 忘れられていることこそ、最も静かで、最も完璧な決着。 これは復讐しない凱旋の物語。
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的中率百発百中。ゆえに「呪いの占い姫」と恐れられた公爵令嬢ヴァイオレットは、夜会の場で王太子から婚約破棄を言い渡される。 取り乱すこともなく、彼女は餞別代わりにカードを三枚めくった。 ――十日のうちに、あなたの右腕が王家の金庫ごと消えますわ。 ――半年を待たず、隣の可愛らしい方の嘘が、あなたを刺しますの。 ――一年のうちに、あなたは玉座から一番遠い場所で、今日を悔やみますわ。 「負け惜しみ」と嘲笑された予言は、そのすべてが現実となる。 一方その頃、国を捨てた彼女を迎えに来たのは、三年間偽名で鑑定依頼の手紙を送り続けてきた隣国の若き大公で――? 「貴女の目を呪いと呼ぶ国は、貴女に相応しくない」 占い令嬢は指一本動かさない。ただ、視えたことを申し上げただけですわ。
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