君の優しさが、私の地獄だった

魔導瓦斯(ガス)灯が街を照らし、和と洋、そして魔法が交差する華やかな「魔導浪漫」の時代。

矢絣の着物にブーツを響かせ、誰にでも愛される可憐な少女を演じるアリア。

しかし、その笑顔の裏側に隠された本性は、息を吐くように嘘をつき、他人の不幸を嘲笑う、底抜けの悪女だった。

「信じれば奪われる。だから、先に奪う」

過酷な過去からそんな信念を持つ彼女は、一人の青年に目を付ける。

彼の名はジン。

世界を揺るがすほどの規格外の強さを持ちながら、誰の嘘でも笑って許してしまう、底なしのお人好しだ。

アリアにとって、ジンは己の身を守り、利益を貪るための最高の「獲物」のはずだった。

彼に取り入り、甘い言葉で操り、用済みになれば無惨に捨てる。

その完璧な計画は、順調に進むかに見えた。

しかし、共に旅を続け、鋭い観察眼を持つ騎士や論理的な魔道士といった仲間が増える中で、アリアの足元は少しずつ揺らぎ始める。

どんな卑劣な悪党や魔物を前にしても、ジンは決して怒らない。ただ悲しそうに寄り添い、誰もが目を背けたくなるような人間の「弱さ」や「ズルさ」を、丸ごと肯定するような言葉を紡ぐのだ。

それは、難解な説教ではない。日常のふとした瞬間にこぼれ落ちる、優しすぎる真理。

敵に向けられたはずのその温かくも鋭い言葉は、なぜか毎回、隣で腹黒い計画を巡らせるアリアの真っ黒な心に、刃のようにグサグサと突き刺さっていく。

嘘で塗り固めた私を、どうしてそんなに優しい目で見つめるの?

誰よりも醜い私の心に、どうして触れようとするの?

見返りを求めないその無条件の慈悲は、彼女にとって逃げ場のない「地獄」そのものだった。

これは、世界で一番性格の悪いヒロインが、絶対に裏切らない青年の優しさに抗い、もがき、やがてその温もりに溺れて号泣するまでの物語。

「君の優しさが、私の地獄だった」

――彼女が泥まみれでそう叫ぶ時、あなたはきっと、この最悪なヒロインを愛おしく思わずにはいられない。
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