俺は妹が見ていた世界を見ることはできない

 妹が残された僅かな時間の中で書き残したその本は、十年経った今も書店の棚に並んでいる。
 恋愛ものでもなければ、推理ものでもない。流行りの異世界ものでもない。ヒーローもヒロインも登場しない。
 変わらない日常を淡々と描いた、目立たない内容。
 血の繋がらない者同士が惹かれるように、少しノスタルジックな喫茶店に集まり家族になるお話。
 ありきたりな話だけど、読者からはとても愛されている。
 なんでも、読み終わった後、灰色の世界が色付いた世界に見えるらしい。そう、SNSにコメントが書かれていた。
 俺は何回も読む。だけど、俺の世界はずっと灰色のままだ。
 俺は親友と妹の願いを少しでも叶えるために、灰色の世界を生き続ける。
 妹と親友が最後に過ごしたこの地で。
 一度でいい、妹が見ていた世界を見たいと願いながらーー
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