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婚約者のために働く毎日は、もう終わり。
これからは、私の仕事で、私の幸せを買いにいきます。
婚約を解消したフローラが、自分のお金で買ったのは、客室が六つしかない古びた宿。
豪華な料理も、立派な調度品もない。あるのは空室の札と、減っていく銀貨。それでも、ここから自分の暮らしを始めたかった。
そんな「灯り窓亭」にやってきた最初の客は、無愛想な伯爵アーネスト。
彼が求めたのは、静かな寝床と、仕事へ出る前に食べられる温かい朝食だった。
「もう少し、いただけますか」
空になった皿を差し出された朝から、小さな宿の毎日が動き始める。
清潔な寝具、迷わない道案内、早起きの客を待つスープ。仲間と重ねた工夫が、少しずつ「また来たい」に変わっていく。
けれど、元婚約者の嫌がらせや、宿の名前を勝手に使う仲介商が、その暮らしを脅かして――。
働いた分のお金も、仲間の居場所も、泣き寝入りして手放すつもりはありません。
一方、延泊を重ねる伯爵は、いつしか部屋よりも、彼女に会うことを楽しみにするようになっていた。
「仕事が終わっても、会いに来ます」
文字数 156,969
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.09
結婚の条件は、宿を閉めて、仲間を解雇することだった。
「私もここで働きたいんです」
領主の息子との縁談を断ったリゼは、九年間の蓄えをはたき、勤め先の小さな宿を買い取った。
ようやく手にした、自分で選んだ暮らし。
その翌朝、大雪が東の峠と西の橋を塞いでしまう。
帰れなくなった旅人は二十三人。食料は、従業員の分を合わせても十二日分。
そんな宿で金貨を差し出したのは、どこか命令慣れした客、アデルだった。
けれど、道がなければ食べ物は買いに行けない。
リゼが頼んだのは、お金の代わりに手を貸してもらうことだった。
料理はできない。桶の置き場も分からない。
それでも彼は、慣れない仕事を覚え、リゼの隣で冬を越そうとしてくれる。
一緒に食卓を整えるうちに、ただの客だったはずの人が、少しずつ特別になっていく。
だが彼の正体は、この街道への補助を続けるべきか、審査のために訪れた公爵だった。
宿を守りたいリゼと、一軒の宿だけを特別扱いできない彼。
雪が融ければ別れる二人には、好きになるだけでは越えられない隔たりがある。
この仕事も、この場所も、手放さずに恋をしていいだろうか。
雪に閉ざされた宿から始まる、不器用な公爵と女主人の、お仕事と恋の物語。
文字数 125,003
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.10
「殿下。その石は、ガラスです」
祝福に包まれた広間で、宝石鑑定士エマは差し出された婚約指輪を受け取らなかった。
王太子から返ってきたのは感謝ではなく、「偽鑑定士」という罵倒と婚約破棄。
けれど、泣いてすがる理由はもうない。
婚約の破棄はお受けします。その前に、この指輪を皆様の前で確かめましょう。
宮廷を去ったエマが開いた、小さな鑑定店。
そこを訪れた公爵ユリウスの依頼は、すり替えられた母の形見を取り戻すことだった。
彼は彼女の説明を最後まで聞き、仕事に正当な報酬を払い、援助を断られても態度を変えない。
そして、依頼を終えると夕食に誘ってくる。
仕事を認めてほしかった。けれど、この人は仕事をしていない私にも、会いたいと言う。
彼と心を通わせながら、エマは奪われた宝石と職人たちの誇りを取り戻していく。
その手掛かりが、やがて王家の宝石に隠された不正へとつながるとも知らずに。
私を偽物と呼んだ人たちには、その言葉の責任を。
私を大切にしてくれる人には、私自身の意志で返事を。
確かな腕で嘘を暴き、誠実な公爵と恋を育む、宝石鑑定士の逆転と幸福の物語。
文字数 92,499
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.12
「公爵様の魔法は、間違っていません。私たちのほうが、読み方を忘れているんです」
王立魔術院で、術式の誤字や欠落を見つける「魔法校正士」として働いていたリティシア。
彼女の仕事は、事故が起きる前に間違いを消すこと。
そのため、何も起きなければ成果は誰にも見えない。
そんなある日、王都の新型防衛結界に危険な三文字の欠落を見つけたリティシアは、起動延期を訴える。
しかし婚約者セドリックから返ってきたのは、
「君は細かいところを気にしすぎる」
という言葉だった。
結局、結界は暴走。
リティシアが大事故を防いだにもかかわらず、待っていたのは職務停止と婚約解消だった。
王都を去った彼女が向かったのは、雪深い北方グランツ公爵領。
そこで出会ったのは、触れた魔法を次々と壊してしまうことから「呪われ公爵」と恐れられるアルヴェインだった。
だが、彼の魔法を調べたリティシアだけは気づく。
壊れているのではない。
アルヴェインの魔法は、現代では失われた“旧い術式文法”に従っているのだと。
誰からも欠陥扱いされてきた魔法を、初めて「間違っていない」と言ったリティシア。
誰にも評価されなかった彼女の仕事を、初めて当然のように価値あるものとして扱うアルヴェイン。
二人は領内の壊れた井戸、防壁、暖房設備を直しながら、やがて王国全土の地下に眠る巨大な術式の秘密へ近づいていく。
一方その頃、リティシアを失った王都では、街灯、水道、結界――これまで彼女が人知れず防いでいた“見えない失敗”が次々と表面化し始めていた。
役に立たなければ、自分には価値がない。
そう信じていた魔法校正士が、仕事と仲間、失敗、そして不器用な恋を通して、自分の人生を選び直していく。
文字数 252,486
最終更新日 2026.10.09
登録日 2026.10.03
「子ども嫌いの冷酷公爵なんて、絶対に嫌!」
妹が断った縁談を押しつけられ、公爵家へ向かったリディア。
ところが、花嫁の部屋で待っていたのは――小さな靴が三足。
背伸びばかりの九歳の少年。
母のリボンを手放せない六歳の少女。
靴を船にして遊ぶ三歳の男の子。
三人は、公爵が引き取った亡き姉の子どもたちだった。
しかも、冷酷と噂の公爵は、夜になると眠れない子を抱き、音程の怪しい子守歌を歌っていて……?
「帰りたければ、帰っていい。今日すべてを決めなくていい」
初めて自分の希望を尋ねられたリディアは、この家で暮らすことを選ぶ。
母親の代わりにはなれない。何でも一人でできるわけでもない。
それでも、皆でお茶を飲み、失敗した日は話し合う。そんな毎日が、いつしか不器用な公爵との恋に変わっていく。
だが、妹は「本来の花嫁に戻りたい」と言い出し、子どもたちの後見を求める親族まで現れる。
――この家にいるのは、役に立つからではありません。
わたくしが、あなたと生きたいからです。
誰かの代わりだった令嬢が、自分の名前で愛される居場所を見つける、家族と恋の物語。
文字数 34,509
最終更新日 2026.10.09
登録日 2026.10.08
「君のような退屈な女を、妻にはできない」
三年間、婚約者の手紙や挨拶文を書き続けてきたリゼは、祝宴の席で婚約破棄を告げられる。
それでも書斎の仕事は続けろという彼に、初めて返した答えは「条件を書面でお送りください」だった。
私物の青い帳面を抱えて屋敷を出たリゼに、無口な辺境伯ノアが声を掛ける。
彼が覚えていたのは、リゼがかつて書いた、子供たちを寒さから守るための一行。
給金、休日、自分の部屋。そして、「好きなものは?」と尋ねてくれる人。
北の町で新しい仕事を始めたリゼは、不器用で誠実なノアに惹かれ、彼もまた、言葉が出るまで待ってくれる彼女を特別に思うようになる。
ところが、元婚約者から届いた呼び戻しの手紙に続き、ノアの名を使った偽の保証承諾書が見つかって――。
もう、誰かに都合のいい言葉にはならない。
これは、人のために書き続けた令嬢が、自分の名前と恋を取り戻す物語。
文字数 44,106
最終更新日 2026.10.08
登録日 2026.10.07
処刑された悪女の肖像には、口が二つあった。
人を見下すような唇。その上塗りの下に隠されていた、柔らかな笑顔。
師匠に仕事の名を奪われ、独立したばかりの修復師エナは、王宮から一枚の絵を任される。
すると、絵の中の王妃が話しかけてきた。
「私の顔は、そのままでいいの。隣にいた子を、捜して」
けれど、絵に残っているのは百年前の一日だけ。
王妃は、自分が処刑されたことさえ知らない。
堅物の記録官ロルフと調べるうちに、消された子供、日付の違う薬、描き変えられた笑顔がつながっていく。
なぜ、この絵は描き変えられたのか。
そして、王妃の隣にいた子は、どこへ行ったのか。
文字数 23,625
最終更新日 2026.10.06
登録日 2026.10.06
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