『行かなければ、壊れなかった』 ~74歳、四十年の友情が終わった日~
『行かなければ、壊れなかった』
~74歳、四十年の友情が終わった日~
あの日
玄関のチャイムが鳴ったとき
胸の奥で
何かが縮んだ
四十年
笑って、殴り合って、酒を飲んで
お互いの若さを知り尽くしていたはずなのに
ドア一枚が
こんなにも重いとは知らなかった
お前の家は明るかった
広い窓
磨かれた床
孫の写真
湯気の立つコーヒー
俺は
笑っていたと思う
「立派だな」と
だが
帰り道
胸の奥で
何かがざらついていた
風が冷たかったわけじゃない
歳のせいでもない
見てしまったのだ
自分の縮み方を
十年で
こんなに違うのか、と
団地の階段を上りながら
ポケットの鍵がやけに軽かった
お前が言った
「今度は俺が行くよ」
その言葉が
刃のように光った
来るな
来るな
来るな
声に出さなかった本音が
部屋の隅に溜まっていった
散らかった新聞
古びたカーテン
冷蔵庫のうなり
これが俺の十年だ
見せたくなかった
貧しさじゃない
老いの形を
電話口で
俺は少し強く言った
「今は無理だ」
お前は黙った
その沈黙に
四十年がひび割れた
行かなければ
壊れなかったのか
いや
見せれば
壊れなかったのか
夜、天井を見つめる
友情は
対等でないといけないと
誰が決めた
若い頃は
金も地位もなかった
ただ
同じ空の下で笑っていた
今は
家の広さや
食卓の明るさが
友情を量る物差しになった
いや
違う
物差しを持ち出したのは
俺だ
お前は
ただ来ようとしただけだった
ドアの向こうで
立ち尽くす自分が怖かった
だから
閉めた
四十年を
行かなければ、壊れなかった
そう思いながら
本当は知っている
壊したのは
訪問じゃない
俺の
小さくなった
誇りだった
チャイムは
もう鳴らない
だが今も
玄関の前に立つと
耳の奥で
あの音が
静かに
鳴り続けている
~74歳、四十年の友情が終わった日~
あの日
玄関のチャイムが鳴ったとき
胸の奥で
何かが縮んだ
四十年
笑って、殴り合って、酒を飲んで
お互いの若さを知り尽くしていたはずなのに
ドア一枚が
こんなにも重いとは知らなかった
お前の家は明るかった
広い窓
磨かれた床
孫の写真
湯気の立つコーヒー
俺は
笑っていたと思う
「立派だな」と
だが
帰り道
胸の奥で
何かがざらついていた
風が冷たかったわけじゃない
歳のせいでもない
見てしまったのだ
自分の縮み方を
十年で
こんなに違うのか、と
団地の階段を上りながら
ポケットの鍵がやけに軽かった
お前が言った
「今度は俺が行くよ」
その言葉が
刃のように光った
来るな
来るな
来るな
声に出さなかった本音が
部屋の隅に溜まっていった
散らかった新聞
古びたカーテン
冷蔵庫のうなり
これが俺の十年だ
見せたくなかった
貧しさじゃない
老いの形を
電話口で
俺は少し強く言った
「今は無理だ」
お前は黙った
その沈黙に
四十年がひび割れた
行かなければ
壊れなかったのか
いや
見せれば
壊れなかったのか
夜、天井を見つめる
友情は
対等でないといけないと
誰が決めた
若い頃は
金も地位もなかった
ただ
同じ空の下で笑っていた
今は
家の広さや
食卓の明るさが
友情を量る物差しになった
いや
違う
物差しを持ち出したのは
俺だ
お前は
ただ来ようとしただけだった
ドアの向こうで
立ち尽くす自分が怖かった
だから
閉めた
四十年を
行かなければ、壊れなかった
そう思いながら
本当は知っている
壊したのは
訪問じゃない
俺の
小さくなった
誇りだった
チャイムは
もう鳴らない
だが今も
玄関の前に立つと
耳の奥で
あの音が
静かに
鳴り続けている
あなたにおすすめの小説
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
白い結婚はそちらが言い出したことですわ
来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかパーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!