婚礼の夜、北の辺境伯アルヴィンは新妻ソフィアにこう告げる。「きみを愛する気はない」。
前世で「愛さないと言われた妻が溺愛される話」を三百冊読んできたソフィアは、内心で拳を握る。来た。ここから溺愛が始まる――。
期待しない。務めは完璧に果たす。自分からは絶対に求めない。教科書どおりに待つこと三年。帳簿を立て直し、領地の危機を救い、夜会では嫉妬作戦まで仕掛けても、夫の返事は「そうか」の一言だけ。
婚姻解消の期日が迫る春、ソフィアは初めて自分から夫に問いかける。差し出されたのは、ノルデンフェルト家に代々伝わる一冊の秘伝書だった。
三年すれ違い続けた夫婦の、遅すぎる溺愛コメディ。
文字数 16,424
最終更新日 2026.10.03
登録日 2026.10.03
乙女ゲームの世界に転生した私は、立ち絵すらないモブ令嬢。断罪イベントのスチルの隅で、悪役令嬢と一緒に退学させられる「取り巻き」のひとりだった。
生き残るため、ゲーム知識で悪役令嬢イザベラに取り入り、取り巻き筆頭の座を手に入れた。彼女を断罪ルートから逸らせば、私も助かるはずだった。
けれど現実のイザベラは、ゲームよりずっとクズだった。無実の侍女に盗みの罪を着せて、真冬の路上に一家を放り出す。しかも嫌がらせの指示書をすべて私に代筆させていたのは、いざという時に私を身代わりにするためだった。
だったら、断罪イベントは予定通り起こしてあげる。
ただし、ゲームの結末ほど優しくはしない。
「私、字を間違えるたびに、お嬢様に直していただきましたよね」
誤字に赤を入れずにはいられない悪役令嬢と、わざと字を間違え続けたモブ令嬢の、ざまぁ短編。
文字数 12,685
最終更新日 2026.10.02
登録日 2026.09.27
「あなたが編成に入った隊は、平均出力が12パーセント低い」
その数字は、正しかった。
王立第三魔術団の補助術士ニナ・アシュフィールド、19歳。
技能は【減衰】——触れた術式の出力を落とすだけの、無能技能。
彼女は編成表から名前を消され、団を追われる。
去り際、彼女は一通の報告書を出した。
高出力の術を撃った翌日、術士の魔脈に「粘るもの」が残る。
痛みはない。どの測定機器にも映らない。
だから報告書は「保留」として、綴りの37番目に沈んだ。
北の鉱山町ケルド。
坑夫は15で坑に入り、45でつるはしを置く。
体はどこも悪くないのに、掘れなくなる。誰も理由を知らない。
ニナはそこで、自分が2年間触れ続けてきたものの正体を知る。
そして7年後、王都から男が訪ねてくる。
文字数 14,725
最終更新日 2026.09.28
登録日 2026.09.24