「ヴァレイユ男爵。王命に背いた理由を申し開け」
男爵エルンストの娘レティシアには、58歳の公爵のもとへ嫁げという王命が下っていた。
婚礼の日、娘は現れない。
審問の間に引き出された男爵は、詫びるでも言い訳するでもなく、静かに告げる。
「娘は、秤にかけて渡しました。代金は銅貨一枚にございます」
実の娘を銭と引き換えに手放した父親。人買いは縛り首、そういう国の法廷に、男は独りで立っている。
誰もが男爵の破滅を疑わないなか、老法務官だけが、埃をかぶった建国法典へ手を伸ばした。
娘を手放した父と、300年誰も使わなかった古い法の話。
文字数 28,980
最終更新日 2026.11.08
登録日 2026.10.21
人の本心が視える公爵令嬢ヴィオレッタは、正真正銘の性悪だった。気まぐれで侍女を解雇し、令嬢を公然と嘲笑い、悪びれもしない。
ある日、彼女は聖女セシリアの心を読んで気づく。この娘は未来を知っている。そして自分が3度の凶行に及び、断罪される筋書きも。
ならば、と彼女は決めた。――何もしないでいよう。
毒を盛らず、衣を裂かず、階段から突き落とさない。ただ、疑いようのない場所に立ち続ける。
未来を知る女が、未来どおりにならない世界に取り残されたとき、何が起きるのか。
改心なし、反省なし。性根の腐った悪役令嬢が、指一本汚さずに勝つ話。
文字数 259,264
最終更新日 2026.11.08
登録日 2026.09.23
わたくし、エリシア・ヴァルデンには魔力がありません。社交界では「ヴァルデンの石ころ」と呼ばれています。
そのかわり、8歳のときから、魔法のかかったものの上に砂時計が見えます。砂が落ちきれば、その魔法は切れます。止めることも、足すこともできません。
そして、わたくし自身の頭の上にも、10年前から砂時計が浮いています。落ちきるのは今夜、王太子殿下の成人前夜の舞踏会。てっきり、自分の寿命だと思っておりました。
最後の晩くらいはと着飾って向かった舞踏会で、殿下はわたくしに婚約破棄を告げました。腕には「聖女さま」。
――けれど殿下。あの方の光にも、痣にも、侍女にも、砂時計が乗っておりますのよ。しかも、どれも残りわずか。
ですから、どうぞごゆっくり。罪状は、一つずつ伺いますわ。
文字数 131,599
最終更新日 2026.11.08
登録日 2026.10.03
性格の悪さで知られる公爵令嬢コルネリアは、ある夜、呪われた。
原因は、彼女に恨みを抱く127人分の怨み。
かけられたのは「思ったことを、すべて口にしてしまう呪い」だった。
お世辞も社交辞令も封じられ、評判は地に落ちる。
そこへ広まる、身に覚えのない「男爵令嬢いじめ」の噂。
王太子は卒業夜会での婚約破棄と断罪を決めたらしい。
――けれど、嘘がつけないということは、
わたくしの「やっていない」は、この国でいちばん確かな証言になる。
問題はただひとつ。
彼女の頭の中は、だいたい悪口でできている。
断罪の場で、コルネリアは性格の悪さを隠さない。
彼女を呪った127人の怨みが、そのまま彼女の武器になる。
冤罪を仕掛けた者たちへの、容赦のない返り討ちが始まる。
文字数 10,712
最終更新日 2026.11.06
登録日 2026.11.06
性格の悪さで知られる公爵令嬢コルネリアは、17歳の誕生日に呪われた。
原因は、彼女を恨む127人分の怨み。
かけられたのは「思ったことを、すべて口にしてしまう呪い」。
解く方法はただひとつ、127人全員の怨みを消すこと。
期限は次の誕生日。過ぎれば呪いは一生解けず、待っているのは北の修道院。
反省など少しもしていないコルネリアは、「ただの手続き」として謝罪の旅に出る。
けれど、謝ろうと口を開けば、出てくるのは本音と悪口ばかり。
謝罪は一度も通じない。
――なのに、仕返しをされると、なぜか怨みが消えていく。
蛇のような刺繍を胸に挿して夜会に出る。鳥の巣の帽子で大通りを歩く。
屈辱のたびに呪われた口が正直すぎる嘆きを垂れ流し、それが仕返しする側を大満足させてしまう。
名簿の名がひとつずつ消えていく中、最後の一行だけが、どうしても読めない。
文字数 10,322
最終更新日 2026.11.05
登録日 2026.11.05
7年間、王太子殿下の「嫌われ役」を一手に引き受けてきた令嬢、黒手袋のセレスティーヌ。
陳情を断り、使用人を解雇し、殿下の浪費にまで「いいえ」を言い続けた彼女は、建国祭の夜、聖女への非道を理由に断罪されます。
「君が悪役として国を去れば、民の怒りは収まる。僕と聖女は、潔白なまま結ばれる」
彼女は、一言も弁明しませんでした。
ただ、一冊の『業務引き継ぎ書』を残して、静かに手を離しただけです。
嫌われる仕事は、誰がやるのか。却下の返事に、なぜ必ず一行が添えられていたのか。
彼女のいなくなった王都で、「検討します」という優しい返事が、少しずつ、国を締め上げていきます。
王太子殿下と聖女は、それでも優しさだけで、国を回せるのでしょうか。
――「黒手袋の令嬢を、返せ」
民衆がそう叫んだとき、殿下は、七年前の「半分こ」の約束の本当の意味を知ることになります。
文字数 9,047
最終更新日 2026.11.04
登録日 2026.11.04
和平の人質として、敵国ガルデンの冷酷王に嫁いだ公爵令嬢カミーユ。
「このスープ、豚の餌かしら」
嫁いで3か月で、彼女は王城でいちばん嫌われた女になった。夫には「国へ帰れ」と言われ、伯父の王には受け取りを断られる。けれど誓いの文句では、花嫁を戻した側も、害した側も、和平を破ったことになる。
ただし、病で死んだときだけは、誰も悪くならない。
ある晩、カミーユの夜食をつまみ食いした下働きの娘が、廊下で息絶えた。溺れるような愛の代わりに届いたのは、両国からの暗殺者だった。
返すことも殺すこともできない花嫁が、霧の立ちこめる国境の橋の真ん中で、足を止める。
文字数 9,003
最終更新日 2026.10.31
登録日 2026.10.30
目を開けると、頭の上に鐘があった。
偽りを語れば鳴るという「真実の鐘」。その下で、公爵令嬢エレオノールは毒殺未遂の罪を問われていた。
だが彼女には、何ひとつ記憶がない。自分の名前さえも。
「覚えておりません」
鐘は鳴らなかった。
屋敷に戻ると、嘘つきたちが次々と訪ねてくる。
「お嬢様はお優しい方でした」と言う侍女。
「きみは私を深く愛していた」と言う婚約者の王太子。
「わたくしたち、親友でしたのよ」と言う被害者の令嬢。
そして実の父だけが、娘がどんな女だったのか「言わん」と口を閉ざす。
空っぽの頭で嘘を並べるうちに、エレオノールは気づきはじめる。
わたくしは、本当に優しい女だったのかしら?
七日後、二度目の裁きの日。
鐘が鳴るのは、いったい誰の言葉か。
記憶を捨てた悪役令嬢が、嘘だけで嘘を暴く、全5話の法廷ざまぁ。
文字数 11,647
最終更新日 2026.10.31
登録日 2026.10.31
指定校推薦の枠は、1枠。評定平均4.6の佐倉澪は、その枠のために2年間、評定を積み上げてきた。競争相手は、評定4.5の親友・神谷楓だ。
3年の春、澪がテスト中に消しゴムを落とす6秒の動画が出回る。映っているのは、不正を疑われかねない仕草だけだった。証拠はない。それでも学校は、澪を校内選考から外した。
同じ頃、父の会社が倒産し、母は家を出ていく。奨学金には家計の書類が要る。推薦を取れなければ、大学に行く金がない。そんな澪のもとに、医学部志望で成績トップの同級生・柏木千歳が取引を持ちかける。「3人、名前を出して」
澪は、自分が助かるために1人を選んだ。選んだ理由は、都合のいいものだった。そして、これが最後の嘘にはならなかった。
評定4.6という数字は、本当は何を積んだものだったのか。誰かを信じなくなった17歳の、10か月の記録。
文字数 93,069
最終更新日 2026.10.28
登録日 2026.10.09
BLゲームの主人公・聖者ノエルに転生した俺の目当ては、ただ一人。断罪されて全てを失った悪役令息ユリウスを引き取り、雨の夜に押し倒す——前世で11回見た、隠しルートの一枚絵だ。
ところが本物のユリウスは、俺を階段から突き落とさない。嫉妬もしない。王太子との婚約は「くれてやる」とあっさり手放す始末。
起きないなら起こせばいい。自作自演の事件を重ね、ついに迎えた断罪の夜会。だがこの悪役令息、性格は最悪なのに嘘だけはつかない男だった。
「俺が突き落とすなら最上段からやる」
筋書きは一つ残らずつぶされ、最後に残ったのは寝台の上の一枚絵——のはずが、どうも構図が逆らしい。
嘘をつかない悪役令息×好かれるために嘘をつく転生聖者。悪党同士の、筋書きにない恋の話。
文字数 22,100
最終更新日 2026.10.28
登録日 2026.10.23
乙女ゲーム『銀薔薇の檻』の世界に転生しました。わたしはヒロイン役の男爵令嬢、リディア・アシュフォードです。
悪役令嬢オクタヴィア・ヴァレンシュタインも、転生者でした。
入学式の翌日、あの方は完璧な日本語でこうおっしゃいました。
――おつかれさまです。
前世より、ずっと性格が悪くなっておられました。
未来を知る力を使って、邪魔な令嬢を修道院へ送り、商家を潰し、周囲の人間を次々と破滅させていく。
しかも、未来を知っていることを決して口にはしません。
証拠を残さず、誰にも疑われない。
そんなあの方に、わたしは何もできませんでした。
文字数 50,527
最終更新日 2026.10.25
登録日 2026.09.26
「明日の茶会で、クラーラ様のドレスに葡萄酒をこぼさせなさい」
公爵令嬢アマーリエは、この国の誰よりも美しく、誰よりも性根が腐っている。王太子の顔が気に入らないので、妃の座をほかの令嬢に押しつけたい。そのための悪事を命じる相手は、いつも侍女のわたくしだ。
わたくし、ユーリアは転生者。持っている力は、三分先しか見えない最下級の《予見》だけ。
だから悪事は止めない。こぼれ方だけを変える。
令嬢にかけるはずの葡萄酒は、令嬢を庇った腕を濡らす。侍女に着せるはずの濡れ衣は、侍女を疑わない落とし物の話になる。命じたのは自分なのだから、お嬢様は何ひとつ否定できない。そうして「人を庇う聖女」の評判が積み上がり、望まない王太子妃の座へ押し上げられていく。
十年前、この家で盗みの濡れ衣を着せられて追われた姉がいる。その名を、お嬢様は覚えてすらいない。
断罪なら半日で終わる。だからわたくしは、お嬢様の一生をいただくことにした。
文字数 29,535
最終更新日 2026.10.25
登録日 2026.10.22
男爵令嬢ミレイユは、王太子の婚約者である公爵令嬢ベアトリスから嫌がらせを受けている。
濡れ衣ではない。全部本当だ。
ただ、隠し方があまりにも雑すぎる。自分の髪と同じリボンで靴を木に吊るし、頭文字入りのハンカチを現場に落とし、脅し文句を楷書で書く。
(馬鹿なの? うまく隠せよ)
困ったことに、王太子フェリクス殿下はこの嫌がらせを理由に婚約を破棄し、ミレイユに求婚するつもりでいる。男爵家に断るすべはない。しかも殿下の頭を通ると、ミレイユの「いいえ」はなぜか全部「はい」になる。
だからミレイユは今日も、自分がいじめられている証拠を拾い集めて、隠して回る。
卒業の夜会まで、あとひと月。
求婚を全力で回避したい男爵令嬢と、隠しごとが下手すぎる悪役令嬢と、アホな王太子の、約10,000字の短編です。
文字数 11,738
最終更新日 2026.10.22
登録日 2026.09.26
乙女ゲーム『白薔薇の聖域』を237周した廃人は、気づけば作中の背景令嬢「メルティナ」になっていた。
立ち絵なし、台詞なし、ストーリーに一度も絡まない完璧なモブ。誰のフラグにも関わらないからこそ、彼女はどこへでも入り込める。
目的はひとつ。全ルートで断罪される悪役令嬢・アデルハイト様を、今度こそ救うこと。
けれど入学から数ヶ月、学園では攻略対象たちの様子が少しずつおかしくなっていく。ゲームにはなかった違和感の先に、物語の「仕様」を知り尽くしたモブだけが辿り着ける、裏ルートがあった。
「わたくし、ただのモブでございますので」
背景は、いちばん近くで世界を見ている。
文字数 21,998
最終更新日 2026.10.21
登録日 2026.10.04
文字数 17,565
最終更新日 2026.10.20
登録日 2026.10.20
「アデライド・フォン・ヴァイセンブルク。貴様との婚約を、破棄する」
建国祭前夜、三百人が集まった夜会の中央で、王太子はそう宣言した。
罪状は、想い人への毒殺未遂。日付も場所も証人も、すべて彼の口から語られた。すべて嘘だった。
弁明すれば逆上と言われ、泣けば誤魔化しと言われる。だからアデライドは、ただ一言こう答えた。
「――承知いたしました。ただ一点だけ、お願いがございます」
正式な断罪録を作り、ご署名と王太子印を。
王太子は笑い、読み返しもせずに署名した。この男は昔から、書類を読まない男だった。
貴賓席で、母が倒れる音がした。
剣も毒も魔法も使わない。彼女が握ったのは、手数料銀貨三枚の申立書ただ一枚。
書式十七番――公文書記載事項の訂正申立。
「別にいい、とは申しません」
文字数 109,873
最終更新日 2026.10.17
登録日 2026.09.24
王立指南院の筆頭指南役リュシアンの仕事は、婚礼を控えた王族の男子に閨の作法を教えること。客の顔は覚えても、名前は覚えない。客に本気になったことは、8年間一度もない。
そこへ現れたのは、婚礼まで30日の王太子レオンハルト。手順書を求める彼に、リュシアンが最初に出した課題は「花嫁の名前を、私の目を見て呼ぶこと」だった。
人に命令しても、見られたことのない王子。人を見ることを教えても、自分は誰にも見せない指南役。教える者と教わる者の一線は、婚礼の日が近づくにつれて揺らいでいく。
けれど、王太子には異国の王女という婚約者がいて、指南役は売られてきた身。結ばれる道など、どこにもない――はずだった。
文字数 26,846
最終更新日 2026.10.11
登録日 2026.10.08