十年ぶりに触れたゲームは、現実よりもリアルな異世界への招待状だった――。
結婚生活十周年を迎えた主婦・時透沙苗は、懐かしさから新作RPGを始める。
選んだ職業は“僧侶”。癒しと祈りで仲間を助けるはずが……なぜか「筋力」に全ステータスを振ってしまう。
気づけば、彼女は異世界《アルヴェリア大陸》の大草原に立っていた。
祈りの力はゼロ。回復魔法も使えない。
だが――彼女が握ったバトルアックスは、大地を割り魔獣を一撃で粉砕する。
「僧侶なのに……なんで斧なの!? いや、強いけど!!」
世界に現れた異端の“筋肉僧侶”。
常識を破壊する冒険譚が、今ここに幕を開ける!
文字数 28,006
最終更新日 2025.08.30
登録日 2025.08.29
纐纈五月(はなぶささつき)は、自分が死んだらしいことに気づくまで、わりと時間がかかった。
最後の記憶は、道路に転がっていたスケボーを避けようとしたあの瞬間。で、その次に目を開けたら、なぜか目の前には銀髪蒼眼、女神みたいな美女が立っていた。いや、立っていたというより、光り輝く玉座に腰掛け、こっちを「ようこそ」みたいな笑顔で見下ろしていた。
「ハヤブサさん、あなたは選ばれました。“降臨者”として、この世界を救う使命を——」
「……ごめん、全然入ってこない」
女神の口調は厳かで、荘厳な響きに満ちていた。だが、サツキにとってはどうでもよかった。
だって、顔がタイプすぎるのだ。S級、いやSSS級美女。理想がそのまま立体化して現れたような存在。内容より、顔面しか頭に残らない。
「……ちゃんと聞いてますか?」
女神が眉をひそめる。
「うん、まあ……世界がなんだかピンチで、俺がどうにかしろって話だろ?でも正直……めんどい」
サツキは即答した。あっさりと。
女神は一瞬、言葉を失ったように口を開けた。
「め、めんどい……?」
「うん。だって、俺もう死んでるんだし。このまま天国でも地獄でも、静かに流される方がラクだろ」
女神は慌てて言葉を継いだ。
「いえ! あなたはまだ終わってはいません! “降臨者”は、この分かたれた二つの世界を繋ぎ、やがて訪れる崩壊を防ぐ唯一の存在……もう一度、生を得られるのですよ?」
「ん〜……」サツキは耳を掻いた。
「なんか面倒な伏線とか戦いとか巻き込まれるんだろ?やっぱパス」
女神は深くため息をついた。そして、わずかに顔を赤らめつつ告げる。
「……では、一つだけ。なんでもあなたの言うことを聞きましょう。それが条件ならば」
「……なんでも?」
サツキの目が一気に輝く。
さっきまで死後の楽園に流されたいとか言ってた男とは思えないほどの勢いで、ずいっと女神に身を乗り出した。
「じゃあ……」
彼はニヤリと笑う。
「俺の童貞を捨てさせてくれ!!!」
——世界の運命を左右する交渉が、いま、地味に始まった。
文字数 27,370
最終更新日 2025.08.28
登録日 2025.08.24
幼い頃、誰よりも強かった父の背中を追いかけていた竜胆大牙。
だが世界戦で父は敗れ、重い障害を負った。その瞬間から、大牙の中でボクシングは「夢」ではなく「傷」になった。
それ以来、リングもグローブも遠ざけ、ただ平凡で退屈な日常を選んできたはずだった。
──夏休み、彼女が帰ってくるまでは。
幼馴染にして、アマチュアボクシング日本王者となった滝川飛香。
幼い頃から共にグローブを交えた彼女は、久しぶりの再会で「スパーリングしよう」と微笑む。
しかし、その瞳の奥には、かつての彼女ではない影が潜んでいた。
飛香は“悪魔”と契約を交わし、強さの代償にもうひとつの人格を宿していたのだ。
悪魔は彼女の記憶を通じ、大牙へと奇妙な執着を抱きはじめる。
やがてスパーリングは戦いを超えた「選択」の場へと変わり、
過去に背を向けた大牙は、再びリングに立つことを迫られる。
友情と恋愛、憧れとトラウマ、そして人智を超えた“契約”が絡み合う、青春異能バトルラブコメ。
果たして大牙は、幼馴染を救えるのか。
それとも、悪魔と共に堕ちていくのか――。
文字数 2,991
最終更新日 2025.08.28
登録日 2025.08.28
かつて日本屈指の医大で准教授を務めた男、黒瀬蓮。
理不尽な裏切りと悲惨な最期を迎えた彼は、人を信じる心を失ったまま、戦乱に揺れる異世界に転生する。若き姿と共に目覚めたのは「超速再生」と「医療魔法」という、この世界では異端の力だった。
荒廃した都市で出会ったのは、瀕死の奴隷少女・リアナ。助ける義理はなかったはずだったが、救った命はやがて彼の助手となり、二人は共に歩むことになる。
表向きの医師が救わぬ者を救い、闇社会を渡り歩く――
その稼業は「闇医者」。患者は難民、犯罪者、傭兵、あるいは呪いに蝕まれた者たち。彼らの命と引き換えに、アレン・クロウ(蓮の異世界での名)は富と情報を得ていく。
だがその背後には、二つの大陸を分断する宗教戦争と、貧困と格差にあえぐ人々の現実が横たわっていた。
アレンは誰も信じず、どこにも根を下ろさない。放浪こそが彼の生き方だった。
――それでも、目の前で命が尽きようとする者を見捨てられないのは、医師としての宿命なのか、それとも消えぬ罪悪感のせいなのか。
裏切りと救済の狭間で揺れる闇医者と、過去を背負いながら成長していく少女。
二人の旅は、戦乱の世界を巡りながら、やがて大陸をも揺るがす陰謀へと繋がっていく。
これは――命と欲望が交錯する異世界で、“必要悪”として生きる闇医者の物語である。
文字数 30,462
最終更新日 2025.08.23
登録日 2025.08.23
今から数十年前、——西暦20××年のことだ。
ある海洋機構の調査によって、深度8000mの深海から発見された未知の“古代生物”がいた。
その細胞――Λ細胞の研究は、人類に新たな進化をもたらすはずだった。
だが、結果として生まれたのは「変異体」と呼ばれる存在。陽性者は怪物へと堕ち、陰性者は“アンカー”と呼ばれる異能者として人類社会に紛れ込んだ。
各国は混乱を鎮めるため、能力者専用の都市圏を築き上げる。
日本における拠点は湾岸に浮かぶ人工島群――学術都市《日本支部》。
そこは異能者の教育と研究の名目で成立した未来都市群でありながら、裏では監視と抑圧のための檻でもあった。
そんな都市に暮らす高校生、新戸みなと。
彼の能力「ギフトステップ=魂付与」は、あらゆる物質に自らの魂を宿し、意識を分散できるという一風変わったものだ。実戦での派手さはなく、学園ランクはB止まり。しかしチーム戦においては仲間の思考をつなぎ合わせる「リンク」を駆使し、A級評価を受けるほどの協調性の天才でもあった。
――ただし、彼の心は能力以上にやっかいで。
一年生の頃から想いを寄せる少女、三崎あかり。
学園でも孤高の天才と呼ばれるAランクの美少女に告白するも、当然のごとく玉砕。失恋のショックで寝込んでいたみなとのもとへ、まさかのあかり本人がお見舞いに訪れる。
「心配だから」と置かれた飲み物。ドア越しに交わされた優しい声。
その瞬間――みなとの能力が“暴走”する。
気づけば、彼は望んでもいないのにあかりの✖️✖️✖️に魂を付与していたのだ。
不可抗力、完全なる事故。だがよりにもよって“それ”の感覚と視点を共有してしまった彼は……
文字数 30,189
最終更新日 2025.08.22
登録日 2025.08.20
スラム街の地下酒場。
いつものように仲間たちと安酒をあおっていた盗賊ジークは、そこで“あり得ない人物”を目撃する。
白いマントの奥に隠された顔――それは、一年前の式典で見た、翠樹王国の第三王女リュシアだった。
「……まさか、なんで王女様がこんな場末に?」
興味と好奇心に突き動かされたジークは、命知らずにも彼女に声をかけようとする。
しかし相手は王女、しかも護衛は強面の騎士。失敗すれば即座に叩き出されるだろう。
それでも彼には“とっておきの切り札”がある――世界の因果を飛び越え、過去の一点へと戻る「セーブポイント」の力だ。
幾度ものやり直しを繰り返し、ついにジークは王女と二人きりの時間を掴む。
しかし、それは同時に、彼の運命が大きく動き出す第一歩でもあった。
星の沈黙を破り、世界を揺るがす物語の幕が、今、静かに上がろうとしている――。
文字数 16,087
最終更新日 2025.08.19
登録日 2025.08.18
人類が肉体を越え、魂を記録する時代。
太陽の光と宇宙の静寂の中に浮かぶ巨大構造体――エーテル・ノード。
そこは物質世界と情報世界を接続する、人類存続の根幹となる施設であった。
ノードの内部では、幾億の魂が「時代ごとの世界」に保存され、限りなく精密に再現された日常を生き続けている。かつての地球の街並みも、古びたアパートも、見慣れた青空も――すべては情報の編み目に過ぎない。それでも、そこに生きる者にとっては、まぎれもない現実であった。
主人公もまた、そのひとり。
彼は自分が情報世界の住人であることを知らない。ただ日々を生き、時に笑い、時に悩み、そして心の奥底に、微かな違和感を抱えていた。
――なぜだろう。僕はなぜ、こんなにも空を見上げてしまうのだろう。
――これは本当に、僕の人生なのだろうか。
ある日、十年ぶりに義理の姉から連絡が入る。再会の夜、二人は酒に酔い、そして一線を越えてしまう。罪と憧れのはざまに揺れる翌朝、青年の心に芽生えた疑念は、やがてノードの奥深くへと通じる裂け目となる。
人は何をもって「生きている」と言えるのか。
魂はどこに宿り、誰のものなのか。
そして、彼自身の存在は“本物”なのか、それとも――。
エーテル・ノードという未来の神殿を舞台に描かれる、SFと純文学が交錯する物語。
これは「人間の弱さ」と「生命の在りか」を問い直す、静かで深遠な旅の始まりである。
文字数 3,584
最終更新日 2025.08.18
登録日 2025.08.18
目が覚めたら、知らない天井。
そして、すぐ横には——裸の、銀髪褐色、超絶美女。
おまけに耳は尖ってて、まるでファンタジーゲームから飛び出してきたようなダークエルフ。
……え、なんで俺も裸?
昨夜なにがあった!? いや、思い出せない! 俺の脳内放送倫理委員会がモザイクかけまくってて全然見えない!
しかも、彼女は超クールな戦士系美女……と思いきや、どうやらただの美女じゃないらしい。
この出会い(というか再会?)の裏には、禁術だの蘇生だの、前世での恋人関係だの、やたらスケールの大きい真相が隠されているとかいないとか。
でも当の本人——つまり俺は、記憶喪失で何もわからない!
剣と魔法、二つの月、そして少しばかりの羞恥心(と露出)。
世界の謎を解く鍵は、裸の目覚めから始まる——!
「……俺、なんでこんな目に遭ってるんだ?」
そんな一言から幕を開ける、記憶喪失男とダークエルフ美女の、ちょっとエッチでやたら壮大なファンタジー・コメディ!
文字数 98,313
最終更新日 2025.08.17
登録日 2025.08.14
彼女いない歴=年齢、平凡で地味な高校生・佐藤蓮。
誕生日の朝、いつものように遅刻ギリギリで駅の階段を駆け上がったその瞬間――
運命の頭突き事故で、県内最難関お嬢様学園に通う“学園一の美少女”・天城レイナと体が入れ替わってしまった!?
戸惑いながらもレイナとして女学院に通うことになった蓮だが、その学園生活は地獄の連続だった。
完璧な容姿に、圧倒的な家柄、しかしその実態は――
「え、私って……学園で一番嫌われてる悪役令嬢じゃん!?」
性悪と恐れられるレイナの噂により、周囲からは警戒の視線!
一方、レイナも蓮の身体で庶民男子校ライフを送る羽目になり、彼の極貧生活にカルチャーショック!
それでも二人は「元に戻る方法を見つけるため」、お互いの生活を共有し合いながら奮闘する。
――だが、入れ替わりの日常は、やがて“恋”という名の予想外な感情を呼び起こし……?
性別も生活レベルも180度違う二人の、ちぐはぐでトラブル続きの入れ替わりライフ!
学園✕コメディ✕日常✕恋愛、
「悪役令嬢なんかになりたくない!」と叫ぶ平凡男子の、波乱だらけの青春ラブコメディ開幕!
文字数 32,167
最終更新日 2025.08.13
登録日 2025.08.06
この世界には、「存在」と「非存在」のあわいがある。
境界の綻びを喰らう異形《カラリス》と、それに抗う者たち──《空律庁》。
高校生・蒼は事故の後、奇妙な病室で目を覚ます。
色が抜け落ちた世界。足音のない廊下。
そして、現れた“案内人”は、死んだはずの幼馴染・千夜だった。
「さっさと行くぞ、“あの世”」
冗談のような言葉とともに手渡された身分証。
そこに刻まれていたのは──空律庁 第三区域防衛管区 第三席、時雨千夜の名前。
死んだはずの彼女は、なぜそこにいるのか?
境界の向こうで何が起きているのか?
やがて蒼は、存在そのものを揺るがす戦いに巻き込まれていく。
“死”は終わりじゃない。
生への始まりでもない。
それは、「あちら側」への招待状。
空の果てへと続く、——たったひとつの時間を繋ぐ駆け道である。
文字数 31,368
最終更新日 2025.08.08
登録日 2025.08.03
「私、ただ田舎でスローライフしたかっただけなんですけど???」
大阪・梅田のど真ん中で育ち、都会の喧騒に疲れた少女・水庭翠。
目指すは農業高校 → 田舎移住 → 自給自足の楽園生活!
……のはずが、目を覚ませばそこは中世ファンタジー世界。
森も、湖も、空も美しい――でも問題は。
自分の魔力が、山一個ふっとばすレベルだったこと。
「はぁ……じゃがいも育てたいだけなんですけど……」
・魔法属性、前人未到の【7属性コンプリート】
・戦闘力、測定器を壊す【E・X・C・E・E・D】
・ギルド勧誘、1日30件オーバー
・農地を耕すたびに【大地の地形が書き換わる】
・水やり魔法で【川が一本生まれる】
そんな彼女が望むのは、モンスターも戦争もない、
のんびりごはんを作って、畑をいじって、昼寝して暮らすこと。
だが世界は彼女を放っておかない――
これは、“超魔術師”に転生した少女が、
本気でスローライフを目指すだけの話。
……たったそれだけなのに、
世界の運命が巻き込まれていく件。
文字数 321,105
最終更新日 2025.08.03
登録日 2025.07.06
かつて世界は「たったひとつ」だった。
その世界の起源──ゼンレス・ゾーンと呼ばれる“原初の座標”は、人類が決して触れてはならない真実の構造だった。しかし、プロメテウス――時間を量子化し、情報だけを多世界線へ転送する時空装置――が稼働したその日から、すべては変わった。
今、私たちが生きているこの現実は、ただの「セカンド・タウン」にすぎない。
舞台は数百年後の地球。国家は都市ブロックへと変貌し、社会は電子と記憶で構築され、空間すら“加工された現実”として日々更新されている。TOI-700 dと識別されたこの多世界線では、人類は科学の力で“永遠”を求めた結果、自らの存在の輪郭を見失いつつあった。
そんな世界で、降谷環は特殊犯罪対策課に所属する捜査官として、治安の最前線に立っている。合理的で冷静、任務には一切の妥協を許さない――だが彼女の心には、いまだ拭えぬ「ある記憶」が残っていた。
それは7年前に別れた初恋の男、黒瀬駿一。
彼はGIFTED――プロメテウス由来の異能を持つ者たちの一員となり、殺人事件をきっかけに姿を消した“指名手配犯”だ。
ある日、駿一の目撃情報が届く。
場所は、ネオ・トーキョー郊外、かつて二人が一緒に訪れた廃墟の街。
環は同僚にも上司にも秘密のまま、独自に調査を開始する。
彼は本当に、まだこの世界にいるのか?
それとも彼の存在そのものが、“嘘の世界”に残された残像なのか?
恋と記憶と、存在の意味が交差するとき。
降谷環が見つける「真実」は、彼女自身が“どの世界”に生きているのか――その答えへと繋がっていく。
文字数 1,814
最終更新日 2025.07.06
登録日 2025.07.06
田舎に住む普通の男子高校生・大空 麦(おおぞら むぎ)は、
ある夏の日、家の裏庭にあるボロ小屋で「異世界へと通じる扉」を発見してしまう!
扉の向こうに広がっていたのは──
戦争に疲弊し、食糧難にあえぐ中世風の漁村だった!
村人たちのやせ細った顔を見た麦は、思わず叫ぶ。
「こんなときこそ──おにぎりだろ!!」
……が、異世界に電気は通っていなかった。
炊飯器、ただの鉄の箱と化す。
それでも、麦はへこたれない。
火を起こし、鍋で米を炊き、海苔を巻いて、塩をまぶして……
文明の粋と家庭の知恵で、「最高のおにぎり」を振る舞う!
「う、うまい……! これが“ムスビ”という食べ物か……神の食い物だ……!」
異世界の人々は目を見開き、
塩むすびはいつしか信仰の対象にまでなってしまい──!?
ごく普通の高校生が、“おにぎり”という最強の武器を手に、
今日も異世界で人助け!
果たして麦は、飢える村を救い、
扉の謎を解き、世界をつなぐ「飯の配達員」になれるのか!?
──ほっこり感動、おいしさ爆発、笑って泣ける異世界飯テロ冒険譚、ここに開幕!
文字数 33,442
最終更新日 2025.07.05
登録日 2025.06.26
―火乃森炎架、ただいま敗者モードで参上!?
かつて“灼熱の天才”と称され、学園の頂点・SS等級に君臨していた少女――火乃森 炎架(ひのもり ほのか)。
その彼女が、ある事件をきっかけに一転、最底辺のE等級へと降格され、誰もが忘れかけたその名が、今ふたたび学園に響き渡る――!
制服を着崩し、癖っ毛ミディアムを揺らしながら、火花散るような視線で登校してきた炎架。
その姿を見て、周囲はざわつく。
「……あいつ、戻ってきたのかよ」
「本当に契約精霊、失ったって噂……?」
「っていうかファンクラブまだ生きてる!?」
敵視と畏怖と憐憫、そして熱狂。
今や彼女の存在は、学園最前線の“過去の亡霊”と化していた。
だが、炎架にとってこれは“幕引き”ではなく――「再起の第一歩」でしかなかった。
◆
かつて手を取り合った親友、無邪気に支えてくれる後輩、
氷のように冷ややかな宿敵、そして小生意気なマスコット精霊(?)。
平穏そうでちっとも平穏じゃない学園生活の中、
彼女の周りでは“精霊界をめぐる不穏な気配”が静かに忍び寄っていた。
今はもう手の届かないはずの、あの“灼熱の契約”。
それでも、諦められない――この手で、再び炎を掴むために。
「私は、終わっちゃいない――この火が、まだ消えてないんだから!」
これは、一度全てを失った少女が、仲間と出会い、戦い、笑いながら“本当の居場所”を見つけていく、
ちょっとだけ青くて、ものすごく熱い、“情熱と再起”の物語。
文字数 45,034
最終更新日 2025.07.04
登録日 2025.06.08
遠い未来――
かつて青かった地球は、海を失い、風を忘れ、生命という概念さえも手放した。人類は滅びることを拒み、肉体を捨て、意識のみの存在として仮想空間に生きながらえることを選んだ。
彼らは情報の中に宿り、数多の世界線を漂う観測者となった。
だが、世界の外縁に開いたゲートがすべてを変えた。
無数の「別の世界」が交差し、重なり、そして溶け合い始めたのだ。
──起点なき宇宙、最初の世界の消失。
因果の座標は崩れ、記憶と存在の境界は曖昧になる。
世界はひとつずつ終焉へ向かい、やがて「自己」すら定義できなくなっていく。
その中で、彼女は目覚める。
雨宮 澪(あまみや みお)。
すべての記憶の断片から生成された少女型トランサー(航行者)。
彼女の使命は、崩壊する世界の“終わり”を見届け、断ち切ること。
それは同時に、自身の存在を削り落とす旅の始まりでもあった。
世界が消えるたびに、彼女の輪郭も薄れていく。
だが彼女はまだ“何か”を探している。
それは、誰にも観測されず、記録にも残らない「最初の世界」──
そして、かつて誰かが彼女に向けて呼んだ、本当の名前。
無限の時間の流れの中で、
彼女は“世界”と“自己”の終わりを重ねながら、
二度と出会うことのない過去と未来に、静かに手を伸ばす。
これは、すべての記憶が忘れ去られる前に、
最後の航行者が見る、世界の夢の記録。
そして、「存在とは何か」を問い続けた、魂の物語である。
文字数 1,511
最終更新日 2025.07.04
登録日 2025.07.04
赤司大牙がひとりでグラウンドの隅に立っていたのは、春の終わりの夕暮れだった。
部活が終わった放課後だった。彼はひとり黙々と壁に向かってボールを投げていた。
フォームはひどかった。軸足が流れ、リリースも甘い。投げた球はたいてい浮いて、ガシャンと鈍い音を立ててフェンスに当たった。
――それでも、大牙は毎日投げていた。誰に褒められるわけでもなく、誰かに見せるでもなく。
「おい」
そんな彼に、ある日声をかけたのが――遠野青葉だった。
制服のスカートに、だるそうに肩を落としたカバン。耳にはいくつものピアス。ぱっと見で「関わるな」と言わんばかりの空気を纏っていた彼女が、唐突に、芝の上に座りこんだ。
「お前、それじゃ肩ぶっ壊れるぞ」
第一声がそれだった。
大牙は驚いて振り返る。誰だ、この怖そうな人は――と一瞬思ったが、彼女はすでにボールを拾い上げ、勝手に構えを指導してきた。
「リリースポイント高すぎ。そんなんじゃスライダーもまともに曲がんねえし、インハイ抜けるだろ」
「……なんでわかるんだよ」
「うちの親父、元プロだからな。……まあ、クビになってからはロクなもんじゃなかったけど」
その日からだった。
最初は半信半疑で彼女のアドバイスを受け入れ、何度かキャッチボールをするようになり――気づけば、それが日課になっていた。
文字数 27,385
最終更新日 2025.06.26
登録日 2025.06.22
——命を賭して飛んだ、あの空の先に。まだ見ぬ“生”があった。
太平洋戦争末期、特攻隊員として飛び立った朽木想太は、死の淵で目を覚ます。
そこは、四つの帝国が空を支配する異世界――魔導と空船が空を裂く戦時の世界だった。
死を運命づけられた青年は、再び空を得る。
だが今度は“墜ちる”ためではない。“生き抜く”ための飛行だった。
空賊との邂逅、帝国の陰謀、空戦に生きる仲間たち。
過去の記憶を胸に、彼はもう一度空に「夢」を見る。
それは失われた希望を取り戻す旅。
そして、まだ見ぬ地平を目指すたった一度きりの飛行航路。
命を燃やし、空を翔ける。
あの時果たせなかった「生」を、——もう一度。
文字数 115,591
最終更新日 2025.06.08
登録日 2025.05.13
“いつか、誰かの命を救える医者になりたい“
幼い子供の頃から、医者になるという「夢」を描いていた女子大生、藤崎織華は、ある日不慮の事故に遭い、異世界『アルカディア』に転生する。
降り立ったのは、ラント帝国領の貿易都市ロストン。この世界には魔法が存在するが、病気に対する知識は驚くほど未発達だった。“世界の病”とされる黒死病に苦しむ少年との出会いをきっかけに、オリカ(彼女がこの世界で名乗る名前)は現代医学と、本人も驚くほどの強大な治癒魔法を駆使して人々を救うことを決意する。
だが、彼女の医療技術と魔法は瞬く間に都市の経済バランスを揺るがし、貴族派や伝統的な治療師たちの反感を買うことに。妨害と陰謀が渦巻く中、オリカは商人ギルドの支援を受け、個人診療所「うさぎのおうち」を開業する。
彼女の現代知識と”能力“は、星に蔓延し始めていた穢れを祓い、世界を救うことができる力になるかもしれなかった。
魔法と現代医学の融合は、この世界に革命をもたらすのか?
それとも、禁忌の技術として封じられるのか?
黒死病の恐怖、権力者たちの思惑、そして未知の病に立ち向かう医学生の奮闘を描く、壮大な異世界医療ファンタジー!
文字数 883,275
最終更新日 2025.05.12
登録日 2025.02.23