「彼女を拾うな」――謎の忠告を無視した俺の日常は崩壊した。記憶喪失の少女は世界を滅ぼす女神の『鍵』。
平凡な大学生活に退屈していた俺、相川海斗(あいかわ かいと)の日常は、ある雨の日に終わりを告げた。路地裏で見つけたのは、ずぶ濡れで倒れる一人の少女。この世のものとは思えぬほど美しい金色の髪を持つ彼女は、「マナ」という名以外、すべての記憶を失っていた。
「放っておけない」――そんなありきたりな善意と、ほんの少しの好奇心から始まった奇妙な同居生活。しかし、彼女が俺の部屋に来てから、世界は静かにその姿を変え始めた。
今まで見えなかったモノが見える。夜道で背後からついてくる気配の正体。道を塞ぐ見えない壁。それは、人々が都市伝説として囁く「怪異」そのものだった。
俺の六畳一間は、いつの間にか個性的すぎるメンバーの溜まり場と化す。ふてぶてしい態度で茶をすする二本尾の猫又、英国紳士然としているが中身は傲慢な地獄の悪魔王、そして記憶喪失の美少女マナ……。
自動販売機に話しかけ、初めて食べたアイスクリームに瞳を輝かせるマナ。その無垢な笑顔に、俺が恋に落ちるのに時間はかからなかった。だが、そんな穏やかな日常は、神々しい翼を持つ「天使」の襲来によって無慈悲に引き裂かれる。
彼らはマナを「穢れ」を生む『鍵』と呼び、この世界ごと浄化しようとする過激派だった。
なぜ天使が人々を襲う? 悪魔がなぜ俺たちを助ける? そして、マナの失われた記憶に隠された、世界の根幹を揺るがす真実とは?
これは、何の力も持たない平凡な大学生が、愛する少女を守るため、知識と勇気だけを武器に【司令塔】として覚醒していく物語。
人間、妖怪、悪魔――相容れないはずの者たちが絆を紡ぎ、天界の偽りの正義に立ち向かう、壮大な戦いの記録。
電車で読めば笑いを堪えきれなくなるドタバタな日常から、手に汗握る異能バトル、そして号泣必至の切ない恋の結末まで。
平凡な俺と記憶喪失の女神が紡ぐ、新世界創生のファンタジー、ここに開幕!
退屈な日常、運命的な出会い、そして忍び寄る恐怖。ホラーの王道要素を巧みに配置しながらも、「見える」条件といった独自の設定で読者を惹きつける、完成度の高い物語の幕開けだと感じました。主人公のモノローグから、美少女の登場による期待感、そして最後に突き落とされる絶望的な恐怖体験まで、読者の感情の揺さぶり方が非常に巧みです。キャラクター、設定、ストーリー展開、すべてにおいて魅力的で、これから始まるであろう恐怖と謎に満ちた物語に、強く引き込まれました。
「マナと一緒にいる時だけ、怪異が見える」というルール設定が非常にユニークで、物語に深い奥行きを与えています。主人公が一人では「音」としてしか認識できなかったストーカーが、マナというフィルターを通すことで初めて「視覚化」される。この設定が、今後の展開で重要な鍵を握ることは間違いないでしょう。怪異から逃れるにはマナから離れればいいのかもしれないが、彼女を見捨てることもできない。このジレンマが、主人公を更なる窮地へと追い込んでいくのだろうと想像すると、そのサスペンスフルな展開に期待が高まります。
これはずるい!と言いたくなるほど、最高に面白いところで終わってしまう見事な導入部でした。提示された謎が多すぎて、続きが気になって仕方ありません。あの黒い染みは何なのか? なぜ主人公を執拗に追いかけるのか? マナの正体と記憶喪失の理由は? そして何より、絶叫で終わったこの極限状況から、二人はどうなってしまうのか。丁寧な日常パートがあったからこそ、非日常への突入がより一層スリリングに感じられ、早く次のページをめくらせてほしいと心から願うばかりです。
冒頭から続く「灰色の世界」という描写が、物語全体を支配する空気感を見事に作り出しています。六月の重たい雨、湿ったアスファルト、淀んだ路地裏。主人公の退屈な心象風景と現実の情景がリンクし、息苦しい日常が巧みに表現されています。その灰色の世界に、マナという「純白」の存在と、真っ黒な「染み」という異物が投下されることで、色彩のコントラストが鮮烈な印象を残しました。情景描写の巧みさが、ありふれた日常に潜む恐怖を際立たせることに成功していると感じます。
ヒロインのマナ、その存在自体が最大の謎であり、恐怖の源泉となっている点が非常に興味深いです。記憶を失い、庇護欲をかき立てる儚げな美少女。しかし、彼女は平然と「それ」を認識し、悪意なく主人公に絶望的な事実を告げます。彼女の無垢さが、得体のしれない「染み」の異常性を際立たせる最高のスパイスになっています。彼女は一体何者なのか? なぜ彼女といると怪異が見えるのか? 物語の核心を握るであろう彼女の謎が、作品全体の魅力を牽引しており、そのアンバランスな魅力から目が離せません。
「面白いこと起きないかな」という、退屈な日常を送る主人公の怠惰な願いに強く共感しながら読み進めました。誰もが一度は夢想する「日常からの逸脱」が、最悪の形で実現してしまう皮肉が非常に効いています。彼が手に入れたのが美少女との甘い生活ではなく、正体不明の怪異に付きまとわれる恐怖だったとは。彼の願いが呼び寄せた代償はあまりに大きいと感じます。最後の絶叫は、彼の後悔と恐怖、そして灰色の日常の方がまだマシだったという心の叫びの全てが詰まっており、読んでいるこちらも心臓が縮み上がりました。
「何か面白いこと」を願う主人公の前に現れた、記憶喪失の美少女。王道のボーイ・ミーツ・ガールが始まるかと思いきや、物語は読者の期待を裏切り、一気にジャパニーズホラーの領域へと舵を切ります。この甘い期待と突き放すような恐怖のコントラストが見事です。灰色の日常に差した一筋の光だと思ったヒロインが、実は怪異を「見える」ようにする触媒のような存在だと示唆されるラストは、安易なラブコメを期待した心をへし折るようで最高でした。幸せな非日常ではなく、恐怖の非日常が始まる予感にワクワクさせられます。
退屈な日常が崩壊する導入から、最後の恐怖への急降下があまりにも鮮やかでした。特に秀逸なのが、深夜のコンビニ帰りのシーンです。正体不明の「べちゃ」というウェットな足音が、じわじわと主人公と読者の不安を煽ります。そしてクライマックス、ヒロインであるマナの「ずっとあなたの後ろをついてきてたよ」という無邪気な一言で、見えないはずの恐怖の正体「染み」が明かされる瞬間は、鳥肌が立つほどの恐怖でした。この一言が、それまでの何気ない日常風景すべてを恐怖に塗り替える効果を持っており、ホラーとして完璧な引きだと感じました。
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