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『隣の席の天才は、俺にだけ嘘が下手』
頼まれたら断れない。
嘘をつかれても笑って流す。
大学二年の水城奏多は、三年前に兄が家を出て以来、「平気なふり」だけは誰にも見抜かれたことがなかった。
そんな彼の隣に、ある日突然、氷の王子が座る。
氷室律。入試は満点、学会賞を総なめにした天才。笑った顔を見た者は一人もいない、誰も寄せつけない男。
けれど奏多だけが気づいてしまう。
この完璧な男は、嘘をつくと、左袖のボタンに触れる。
「たまたま通りかかっただけです」(ボタン)
「俺は、もう一本ありますから」(ボタン)
顔は無表情なのに、袖が全部白状している。
そして氷室もまた、奏多にだけは見抜いていた。
「水城くんは、嘘をつくとき、いつもより綺麗に笑います」
雨の日に差し出された傘の柄には、三年前、バス停で見知らぬ誰かに渡されたものと同じ「R」の刻印と、削り取られたもう一文字があった。
氷室が奏多に近づいた本当の理由。
なぜ文字は削られたのか。
家を出た兄は、何を知っているのか。
「あいつの言うことは、全部は信じるな」
氷室の袖は、嘘を教えてくれる。
けれど、本当のことを言っているのに言えないとき、人は、どうすればいいのだろう。
嘘を見抜く側だった青年と、嘘が下手な天才が、一本の傘の下で少しずつ距離を縮めていく。
じれったくて、切なくて、ときどき笑える。
袖のボタンから始まる、同じゼミの天才×ひとり笑顔の優等生のラブストーリー。
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