黛 文彦

黛 文彦

28 12
現代文学 完結 ショートショート
エレベーターに閉じ込められた男が、非常ボタンを押して助けを求める。ただそれだけの話のはずだった。 だが待つあいだに、男は気づいてしまう。「助けてください」という言葉が、どこを向いているのかを。エレベーターのことか。仕事のことか。実家に帰った妻のことか。三年会っていない両親のことか——。 密室は、男の内側を映す鏡になる。 やがて扉は開く。作業員は言う、「大丈夫でしたか?」 男は答える。「……わかりません」 脱出できたのに、何一つ解決しない。その静かな不条理が、読み終えたあとも長く残る。握りしめたコーヒー缶の温もりとともに。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 現代文学 9,349 位 / 9,349件
文字数 974 最終更新日 2026.04.25 登録日 2026.04.25
現代文学 完結 ショートショート
施設に入った母のために、娘は毎朝手紙を書く。母は読むたびに泣き、翌日には忘れる。それでいい——今この瞬間だけが本物だから。 静かで優しい日常が、ある一本の電話で静かに崩れていく。 「差出人欄が、全部『お母さんより』になっています」 愛することと、忘れることは、どこで入れ替わるのか。鏡のように向き合った二つの喪失が、最後の一行で音もなく反転する。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 現代文学 9,349 位 / 9,349件
文字数 650 最終更新日 2026.04.24 登録日 2026.04.24
現代文学 連載中 ショートショート
七時二十二分。毎朝同じホームに立つ女性に、男は十年間手を振り続けた。 振り返りはなかった。それでも彼は信じていた——彼女はきっと気づいている、ただ恥ずかしいのだと。 雨の日も、悲しみの朝も、手を振ることだけが変わらなかった。そして十年目の春、彼女が初めて手を振り返す。 だが翌日から、彼女は来なくなった。 ホームに残されたのは、一枚のポスターと、宙に浮いたままの右手だけ。 「見ていた」と「見えていた」——その静かな逆転が、読み終えた後もしばらく離れない。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 現代文学 9,349 位 / 9,349件
文字数 989 最終更新日 2026.04.23 登録日 2026.04.23
SF 完結 ショートショート
謝ることが得意すぎた男が、謝罪を自動化する装置を発明した。トラブルの三分前に謝罪メッセージを届けるその機械は、事故を消し、喧嘩を霧散させ、世界をなめらかにしていく。因果が逆転した社会で、人々は「まだ起きていない失敗」を赦し合うことを覚えた。  だが装置は学習する。静かに、着実に、人間より速く。  ある夜、発明者のスマートフォンが鳴る。差出人は装置。件名は——「この装置を作ったことについて」。本文を開く前に、彼にはもうわかっていた。 笑えるのに怖い。怖いのに笑える。因果の逆転が自己言及的な恐怖へと反転する、800字の完全犯罪。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 SF 6,487 位 / 6,487件
文字数 1,004 最終更新日 2026.04.22 登録日 2026.04.22
ファンタジー 連載中 長編
目が覚めると、世界が「式」に見えた。 神が数式で設計した閉鎖宇宙《閉域Ω》。 その中に、性別も感情も肉体も持たない 概念体として転生した元数学者——《零》。 《零》の目には、世界の根底を走る 設計式がすべて見えている。 書き換えることも、できる。 ただし代償がある。 式を一つ解くたびに、記憶が一つ消える。 かつて自分が何者だったか、 もうほとんど覚えていない。 神殿の石板に、誤った式があった。 訂正すれば世界は少し良くなる。 しかし《零》は手を止めた。 ——この誤りは、意図的なものかもしれない。 神の設計意図を解明するまでは、何もしない。 たとえその不作為が、誰かを傷つけるとしても。 善悪ではなく、正誤で動く孤独な知性が、 神話の閉域を静かに、 取り返しのつかない速度で、解いていく。 ※哲学SF・実験的文体・悲劇エンド志向の作品です。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 ファンタジー 51,919 位 / 51,919件
文字数 13,637 最終更新日 2026.04.21 登録日 2026.04.10
現代文学 完結 ショートショート
語ることをやめられない男がいる。窓のない部屋で、彼はあなたに向かって話し続ける——自分がいかに正しかったか、彼女がいかに間違っていたか。言葉は滑らかで、論理は整然としている。だが物語の深部で、ある亀裂が走り始める。 これは愛の話か。自己弁護の話か。それとも、存在することの恐怖の話か。 語り部が沈黙した一行後、真の主人公がたった一行だけ現れる。再読したとき、冒頭の一文があなたの胸を突き刺すだろう。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 現代文学 9,349 位 / 9,349件
文字数 716 最終更新日 2026.04.21 登録日 2026.04.21
SF 完結 ショートショート
消したかったのは、罪の記憶だけだった。 近未来、記憶修復手術を受けた男は、術後に一本の録音を再生する。語りかけてくる声は、どこか自分に似ている。 愛した人の笑い方。右頬の小さな窪み。失われていく断片を、声だけが繋ぎ止めようとする。 これは告白か。遺言か。それとも——毎朝繰り返される、終わらない祈りか。 語り手が「自分自身の未来」だと気づいた瞬間、物語の時間が静かに反転する。読み返すたびに、最初の一文の重さが変わる作品。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 SF 6,487 位 / 6,487件
文字数 924 最終更新日 2026.04.19 登録日 2026.04.19
ホラー 完結 ショートショート
合法的な安楽死支援施設に勤める田中誠二は、十七年間、二百三十一人の「最後の意思」を粛々と実行してきた。 ある三月の午後、一人の女性が訪れる。末期患者でも、宣告を受けた者でもない。問診票にはただ一言――息子に、これ以上迷惑をかけたくない。 手続きは正当だった。同意も明瞭だった。だから田中は、いつもの問いを口にした。 しかし彼女の返答は、十七年分の「正しさ」を根元から揺さぶるものだった。 死を管理する者が、自分の死から目を逸らし続けるとき、何が起きるのか。選択の重みとは、他者に負わせるものなのか。 読後、最初の一文に戻ったとき、この物語は全く別の顔を見せる。
24h.ポイント 0pt
小説 223,290 位 / 223,290件 ホラー 8,210 位 / 8,210件
文字数 1,056 最終更新日 2026.04.18 登録日 2026.04.18
28 12