歩人

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恋愛 連載中 長編
出版社の校正者だった綾瀬文《あやせあや》は、異世界の孤児アヤとして転生する。 この世界では手紙が契約・外交・裁判の全てを担い、一通の手紙が人生を変える力を持つ。 文字の読み書きすらままならない環境から、前世の言語感覚と「行間を読む力」だけを武器に、 アヤは王都の片隅に小さな手紙屋「言ノ葉堂」を開く。 商人の遺言状、貴族の恋文、国境を越える密書—— 依頼人の「本当に伝えたいこと」を一通の手紙に込める仕事は、 やがて王都の権力争いの渦中に巻き込まれていく。 彼女の最初の客であり、最大の理解者である辺境公爵ルーカスは、 かつて孤児院で出会った少女のことをまだ覚えていた。
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小説 14,813 位 / 224,506件 恋愛 6,463 位 / 65,364件
文字数 57,630 最終更新日 2026.05.28 登録日 2026.05.12
ファンタジー 完結 短編
子爵令嬢クレアは、十年間、王宮の幼少子女に読み書きと外交文書を教えてきた。生徒の中には、貧しい伯爵家の継嗣マルコスもいた。当時八歳、文字も書けなかった少年に、クレアは三千日かけて読書術と外交を教え込んだ。「お前の授業など読み書きだけ。下働きの娘でも教えられる」――王太子妃の侮辱に、クレアは課題帳を置いて去る。その朝、辺境の若き伯爵マルコス・ファロウェイが、五百キロを夜通し馬で駆けて王都に着いた。十年前の生徒が、二十二歳の名君となって、クレアを迎えに来た。「あなたが教えてくれた一文一文を、私はずっと暗記していました。十年、ずっとあなたに見ていてほしかった」――彼の馬の鞍には、十年分の課題帳が積まれていた。クレアが赤ペンで添削した、彼の幼い文字の束。
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文字数 12,912 最終更新日 2026.05.28 登録日 2026.05.28
ファンタジー 完結 短編
伯爵令嬢シビルは、亡き祖母から薬草園「銀月庭」を継いだ。三代続く調合知識を、王宮にも献上してきた。「薬草など雑草の見分けがつくだけ。下働きの女がやればよい」宮廷薬剤師長グスタフの侮辱に、シビルは薬草帳を置いて去る。翌朝、辺境から馬車が一台、王都を目指していた。隣国の薬草学者エルガー・フォン・ラインベルクが、シビルの薬草園に訪ねた。「あなたの祖母君と私の恩師は、三十年文通していました。庭は学術的に国宝級の価値があります」彼が示した古い手紙の束には、祖母の筆跡で書かれた「私の孫が、いつかこの庭を継ぎます」の一文があった。三年前から、エルガーは論文でシビルの薬草園を引用し続けていた——彼女自身は知らずに。「庭を、共に守らせていただけませんか」
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文字数 16,148 最終更新日 2026.05.27 登録日 2026.05.27
ファンタジー 完結 短編
伯爵令嬢ロザリンドは、五年間、老王の弟・前公爵セルジオの夜伽看護を担当してきた。昼は宮廷医師ティモシーが診察し、夜は彼女が患者の体温・寝返り・寝言を読む。ふたりは一度も恋を語らなかった。ただ、ひとりの病人の命を、五年間、共同で守り続けた。「看護など産婆の手すさび。下女に代えればよい」侍医頭フェルディナントの侮辱に、ロザリンドは夜伽看護帳を置いて去る。三日後、ティモシーは患者の枕元にひとり残されていた。下女には夜の体温の変化が読めない。前公爵の容態は急速に悪化する。「あなたが帰ってこないと、私は彼を守れない」ティモシーが辺境のロザリンドを訪ねた朝、彼の手には、五年分の夜伽看護帳の写しがあった——彼が毎朝、ひそかに書き写し続けていたものだった。
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文字数 12,879 最終更新日 2026.05.26 登録日 2026.05.26
ファンタジー 完結 短編
子爵令嬢メリッサは、十年間、王の私的書記として親書の代筆を担ってきた。隣国の王子クラウスとの外交文書を毎月一通、彼女が王の筆跡で書き、隣国から届く返信を王に届ける——その繰り返し。「お前の字は子供の落書き。書記など下級官吏の仕事だ」婚約破棄の宴で王が放った一言に、メリッサは筆を置いて去る。翌朝、隣国の使者が困惑する。王の親書の筆跡が違う。慌てた政務官が王に「書き直してください」と求める。王は筆を取る——書けない。その日、王宮にクラウス王子自身が訪れた。「メリッサ嬢に会わせていただきたい」クラウスは静かに、十年前の最初の親書の写しを取り出す。「親書の行間に、毎回一文ずつ私が書いた言葉があります。それは王陛下にではなく、代筆をしてくれていた『あなた』に宛てた言葉でした」メリッサは目を伏せる。十年。三千通。彼女が一度も読まなかった「行間の私信」が、ようやく彼女のもとへ届いた。
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文字数 15,993 最終更新日 2026.05.25 登録日 2026.05.25
ファンタジー 連載中 長編
前世は過疎自治体の再生に潰された地方公務員だった。目覚めたら、雨漏りのする孤児院の藁の上——王都のスラムだ。文字も読めず、剣も振れず、魔法の才もない。あるのは「死んだ土地をどう生かすか」という、ただ一つの職能だけ。 十二歳、口減らしで売られた先は、飢饉と盗賊で人が逃げ出した“呪われた辺境”。誰も要らない、捨てられた谷だった。だが俺の目には、ただの荒野には見えなかった。涸れた川は治水で戻る。痩せた畑は輪作で甦る。そして人は——「次の冬を越せる」と分かれば、必ず帰ってくる。 帳簿一冊と、井戸一本。そこから十年。荒れ果てた谷は、いつしか王国一の穀倉に変わっていた。 そんなある日、辺境に王家の密使が現れる。なぜ、この豊かなはずの土地は、王国の地図から消されていたのか——。
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文字数 68,379 最終更新日 2026.05.24 登録日 2026.05.18
ファンタジー 完結 短編
伯爵令嬢オクタヴィアは、十年間、王太子レオンの厨房で毎食の献立を組み立てていた。表向きは「賄い女」と呼ばれていたが、彼女の献立には漢方の薬膳学が織り込まれていた——鎮静の春菊、滋養の鶏粥、整腸の山芋。「料理など賄い女の手すさび。下女に代えればよい」婚約破棄の宴で王太子が放った一言に、オクタヴィアは献立帳を置いて去る。その朝、辺境伯テオドールが城門に立っていた。「十年前、戦傷で死にかけていた私を救ったのは、あなたの料理でした」十年前、見習いだった彼女が瀕死の若い騎士のために初めて組んだ薬膳。彼は王宮の料理を「自分のため」に取り寄せ続けていた——本当は、彼女が組んだ献立だと、最初から知っていた。「料理を、あなただけのために、作っていただけませんか」戦傷の手で、テオドールは静かに膝をついた。
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文字数 14,492 最終更新日 2026.05.24 登録日 2026.05.24
ファンタジー 完結 短編
侯爵令嬢クラリスは、五年間、兄夫婦の公爵家で三人の御子の保育を任されてきた。表向きは「下女扱い」だったが、彼女の保育記録には毎日の歌・手作りの絵札・夜泣きの記録が綿密に綴られていた。「育児など侍女の手伝い。本物の貴族のすることではないわ」兄嫁の侮辱に、クラリスは保育記録帳を置いて去る。訪ねた先は、妻を亡くした辺境伯ロタールの屋敷だった。彼の娘リーリャは六歳、母を亡くして以来、誰の前でも笑わなかった。「五年、御子さま方を見続けたあなたなら、リーリャの心も読めるだろうか」ロタールの不器用な依頼に、クラリスは静かに頷く。春が来る頃、リーリャは初めて声を上げて笑った。クラリスの隣で、ロタールも気づくと微笑んでいた——五年ぶりに。
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文字数 14,848 最終更新日 2026.05.23 登録日 2026.05.23
ファンタジー 完結 短編
公爵令嬢エルザは、十六歳から家政の一切を任されてきた。領地経営、使用人管理、収支帳簿——表向きは「下女と同じ仕事」と義姉に蔑まれながら、十二年。「家政など侍女の真似事。本当の貴族のすることではないわ」婚約破棄の宴で義姉が放った一言に、エルザは静かに微笑む。翌朝、公爵家の朝食の席。エルザは父の前に十二冊の帳簿を積み上げた。「表帳簿はわたくしが付けてまいりました。裏帳簿は——お姉様が」十二年分。義姉が捏造した脱税の裏帳簿、すべての頁に義姉自身の署名がある。エルザは毎晩、義姉が部屋を出た後、その署名を筆跡鑑定用に複写していた。義姉が悲鳴をあげる前に、王家監察官が屋敷の扉を叩いた。
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文字数 12,792 最終更新日 2026.05.22 登録日 2026.05.22
ファンタジー 完結 短編
ヴァンディーン伯爵令嬢ローレは、王都の商人ギルドで「帳場係」と呼ばれていた。十年間、王都に出入りする塩・茶・絹・銀の取引を、彼女がひとりで台帳に記してきた。「お前の帳場など商人ごっこ。記録などギルドの誰でもつけられる」――商人ギルド会頭の侮辱に、ローレは台帳を閉じて立ち上がる。翌朝、ギルドの帳簿係たちは絶句した。十年分の台帳が、誰にも読めない暗号で書かれていた。彼女がひとりで発明した、商隊間の独自暗号――鍵を知るのは、彼女ただ一人。三日後、塩の値段が三倍になり、絹の取引が停止し、王家への銀の納付が間に合わなくなった。「鍵をお売りください」と訪ねてきた会頭に、ローレは静かに言う。「鍵は売り物ではございません。わたくしの十年です」
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文字数 14,070 最終更新日 2026.05.21 登録日 2026.05.21
ファンタジー 完結 短編
侯爵令嬢ヴィオラは、王太子レーヴェの病弱な体を十二年間、夜伽看護で支えてきた。発熱の前兆、薬湯の温度、寝返りの間隔——四千三百八十夜分の記録が、彼女の看護帳に綴られていた。「お前の看護など産婆の手すさび。下女に代えればよい」婚約破棄の夜、彼女は看護帳を置いて去る。その三日後、王太子の高熱は止まらなくなった。誰も薬湯の温度を知らない。誰も寝返りの合図を読めない。看護帳の最終頁だけが、なぜか破られていた——破ったのは、王太子本人だった。「あの頁には、私が彼女なしでは眠れない理由が書いてあった」もう手遅れだと気づいた夜、王太子は四千三百八十一夜目を、ひとりで耐えることになる。
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文字数 12,337 最終更新日 2026.05.20 登録日 2026.05.20
ファンタジー 完結 短編
「侍女に薬湯でも持たせろ。公爵令嬢殿は、もう不要だ」――王宮侍医頭グレゴールの一言で、公爵令嬢クラリッサは静かに薬研を片付けた。王太子レオンハルトは、その場で頷いた。彼女の名前を呼ぶこともなく。十年間、毎晩王太子の枕元に置かれていた湯気の立つ陶器の碗。王太子は、それを「侍女が運んでくる温い水」だと思っていた。放逐から十二日。眠れぬ夜の三日目に、王太子は枕の下から束ねた処方箋を見つける。十年分。三千六百通。すべての処方箋に、差出人の名前が――書かれていなかった。「これを書いたのは、誰だ」王太子の問いに、侍医頭は「クラリッサ様で」と答えた。――その名を、王太子は一度も口にしたことがなかった。居並ぶ誰一人として、彼女を本名で呼んだ者はいなかった。
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文字数 10,626 最終更新日 2026.05.19 登録日 2026.05.19
ファンタジー 完結 短編
宮廷料理長アネリーゼは「料理に魔法を使わない」という信条が王宮で嫌われ、追放される。辿り着いた辺境の村で彼女が見つけたのは、魔法汚染で絶滅しかけている古代食材と、忘れ去られた「発酵」という技術の痕跡。この世界では魔法が化学調味料のように味を合成し、微生物を殺し、時間をかけた食の文化を根こそぎ消し去っていた。アネリーゼは土を耕し、種を蘇らせ、目に見えない小さな命——酵母や乳酸菌——と共に、失われた料理を復活させていく。パンが膨らむ奇跡、チーズが熟成する不思議、燻製の香りの深さ——「時間こそが最高の調味料」。その味に人々が涙する。
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文字数 263,981 最終更新日 2026.05.18 登録日 2026.03.29
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「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
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文字数 10,398 最終更新日 2026.05.18 登録日 2026.05.18
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「お前の授業など、子守りの替わりだった」――王太子レオンハルトに婚約破棄を告げられた公爵令嬢エリーゼは、ただ静かに学習帳を閉じた。七歳から十五年間、彼に文字を、文法を、王家公文書の文体を、外交辞令を教え続けた令嬢である。王太子は知らない。即位演説草稿の起草も、隣国親書の翻訳も、勅令の校閲も、すべて彼女がやっていたことを。婚約破棄から三月。即位式の朝、王太子は自分の演説草稿を一字も読めなかった。弟王子も妹姫も補佐官も書記官も――彼女に教わった全員が、令嬢の去った王城で文字を失った。「習った覚えはない」と王太子は震えた。覚えていなかったのは、教師ではなく、教え子のほうだった。
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小説 4,858 位 / 224,506件 ファンタジー 829 位 / 52,186件
文字数 9,735 最終更新日 2026.05.17 登録日 2026.05.17
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カウンタ伯爵令嬢メリザンドの家は、代々「通貨計算師《つうかけいさんし》」——通称、算盤師《そろばんし》——を務める。銅銭・銀貨・金貨の重量校正、合金比率の管理、流通速度の計算、為替の予測——王国の貨幣経済の心臓を、一族が静かに担ってきた。 婚約者の王太子は、メリザンドの仕事を理解しなかった。 「銅銭の数を数えるなど、誰でもできる。算盤を弾くのは商人の仕事だ」 左様でございますか。メリザンドはそう答えて、王宮の造幣局から自家の標準分銅一式と合金配合書を全て持ち帰り、家業を畳んで自由都市レーゲンへ移った。 半年後、王国の貨幣が異変を起こす。銅銭は重さがバラバラ、銀貨は鉛が混じり、金貨は微かに軽くなる。隣国エルドラの両替商が「貴国の貨幣は信頼できぬ」と取引を拒む。為替が暴落し、交易が停止する。誰も気づかない——なぜなら、貨幣の真実を計る者が、彼女と共に去ったからだ。 「貨幣は、誰が作ったかではなく、誰が校正したかを覚えています」
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ファンタジー 完結 短編
カルヴェッツ伯爵令嬢フィリッパは、王家の「蝋燭職人」を務める家に生まれた。蜜蝋・獣脂・松脂の配合、燃焼時間の精密計算、儀式用蝋燭の彫刻——王家の祈りと儀式の光は、すべて彼女の家から生まれる。 婚約者の王太子の側妃となった侯爵令嬢が、夜会で言い放った。 「蝋燭屋風情に何ができますの。蝋を捏ねるだけのお仕事でしょう?」 左様でございますか。それでは、あなた様の戴冠式は、闇の中で行われますわ。 婚約破棄の翌朝、フィリッパは王宮の蝋燭蔵から自家の配合書と儀式用蝋型を全て持ち帰り、家業を畳んで北方の鉱山町オラスへ移った。 半年後、王太子の戴冠式が近づく。新しい蝋燭職人を雇うも、儀式用の長時間燃焼蝋燭の作り方を知らない。即位の祈祷三時間を耐える蝋燭がない。蜜蝋の養蜂師は「カルヴェッツ家の紹介でなければ売らない」と背を向ける。 「蝋燭は、火を点けた瞬間に、千年の祈りを灯すのです」
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ヴェッツリ伯爵令嬢クリスタリーナは、千年続く吹きガラス職人の家に生まれた。王宮のステンドグラス、薬瓶、温室の硝子板、シャンデリアの結晶——王家の光を司る一族である。 婚約者の王太子は彼女の仕事を「砂を溶かしただけのもの」と笑い、婚約を破棄した。「ガラスなど工房の下働きの仕事だ。貴族の令嬢が手を汚すものではない」 左様でございますか。クリスタリーナはそう答え、王宮工房から自家の吹竿《ふきざお》と原料配合書をすべて持ち帰り、家業を畳んで南方の港町ヴェルナへ移った。 半年後、王宮のステンドグラスが冬の嵐で割れた。誰も継ぎ方を知らない。薬瓶の在庫が尽きる。温室の冬野菜は霜に枯れ、シャンデリアの結晶が落ちて宴の卓を切る。冬の風が、王宮の窓から吹き込み続ける。 「ガラスは、息を吹き込んだ者の温度を、千年覚えています」
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フランク伯爵令嬢ロザリンデは、二十五歳までに三度、婚約破棄された。 一度目は十六歳、相手は侯爵子息。「政略結婚は性に合わない」。 二度目は二十歳、相手は子爵子息。「君の家門は格が低い」。 三度目は二十四歳、相手は伯爵子息。「お前のような女は誰も愛せない」。 不思議だった。三度とも、破棄宣告の手紙が「同じ筆跡」で届いた。三度とも、相手の家族はロザリンデを高く評価していた。三度とも、宣告の三日前に王宮の女官長が来訪していた。 半年後、ロザリンデは三人の元婚約者の手紙を並べた。完全に同じ筆跡。書き手は——王宮の女官長エルフリーデ。彼女が連続して仕掛けてきた縁談潰しが暴かれる。 「同じ筆跡で書かれた断罪は、書き手のほうを断罪するためにある」
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カンパネラ伯爵令嬢ヴィオラの家は、千年続く「染料調合師」を務める。王家の象徴である「ヴァルテリス紫」の絹を独占的に染める一族。媒染剤の比率、貝紫の漁師との交渉、季節別の温度管理、退色防止——紫の権威は、ヴィオラの祖母から受け継がれた手から生まれる。 婚約者の王太子の側妃となった侯爵令嬢が、夜会で言い放った。 「染料屋の娘の手など、王家にふさわしくありませんわね」 左様でございますか。ヴィオラはそう答えて、王宮の染料蔵から自家の媒染剤瓶と貝紫粉を全て持ち帰り、家業を畳んで南方の港町ポルト・ロサへ移った。 半年後、王太子の戴冠式が近づく。王家の紫の絹が褪色する。新しい絹を染めようとしても、媒染剤の比率がわからない。貝紫の漁師は「カンパネラ家のお嬢様の紹介でなければ売らない」と背を向ける。 「紫は、染める者が誰かを、絹が覚えているのです」
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文字数 13,034 最終更新日 2026.05.12 登録日 2026.05.12
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