現代文学 余韻 小説一覧

17件
1

潮

夜の海中を漂いながら、物思う男。 【小説家になろうおよびカクヨムにも投稿しています。表紙画像はあさぎ かな様より頂戴しました。】
2

映画館

暗い映画館で、男は一本の映画を見ていた。 映し出されるのは、どこか懐かしく、見覚えのある風景。 若い男女の笑顔、季節の移ろい、誰かの温もり。 見続けるうちに、男はその物語と自分の心が少しずつ重なっていくのを感じる。 静かな光と記憶が交わる、優しく不思議な時間の物語。
3

霧子ノア 幻想譚集

忘れたはずの記憶が、ふいに戻ってくる。 人ならざるものが、日常のすぐそばに現れる。 古い伝承が、静かに現実へ滲み出す。 数百字から読める、 静かで少し不思議な短編幻想譚集です。 境界や記憶、人ならざるものとの揺らぎを、 静けさと余白の中に描きました。 一話ごとに完結する、 少し不思議で切ない物語たちです。
4

静かな悪戯 ― The One Who Remained ―

山で倒れていた若い男を拾った、ひとりの男。 共に暮らす静かな時間の中で、 やがて二人は、それぞれの喪失を抱えたまま ゆるやかに交わってゆく。 けれど人は、いつも先にいってしまう。 それは、まだ何も始まっていない頃の物語―― 見送り続けた者が辿る、 静かな時間の物語。 ※本編以前の、昔々の物語。  本作は『静かな悪戯』世界観による独立譚です。 『静かな悪戯 ― 並ぶ者たち ― Beside』本編掲載中。
5

【短編024】 お礼回り:お礼の旅の終わりに残るもの

七十八年分の住所録を手に、富子は「ありがとう」を言い残した人々を訪ねていく。すでに消えた住所、変わってしまった記憶、そして変わらず残っていた想い。人と人のあいだに静かに積もった時間を辿るうちに、彼女自身の名前だけが最後に残っていく――。
6

【連作短編039】杜 全5話 ―撮らなかった写真が、一枚だけあった―

屋久島、縄文杉。二千年の杜で、束の間の恋をひとつ。 写真家の尚人と、森林保全の仕事をする澄香。 屋久島の山道で出会った二人は、二千年とも七千年ともいわれる縄文杉の前で、少しずつ距離を縮めていく。 「撮る人」と「守る人」——価値観の違いが生む小さな波紋。 東京に戻ってからも変わっていく二人の距離を、片耳の折れた猫・ハルだけが見つめている。 二千年生きる杉と、瞬きほどの人の時間。 その対比の中で描く、静かで美しい恋の物語。
7

【短編038】 三億円:何も変わらなかった。ほとんど。

三十四歳、無職。 日雇いとギャンブルで食いつなぐ男が、ジャンボ宝くじで三億円を当てた。 豪遊、投資、貯金——何をすべきか、男はAIに聞いた。 AIは丁寧に答えた。男は言われた通りにした。 それだけだった。 金は残った。 生活は、細部だけ変わった。 ハルは今日も、窓の外を見ている。 三億円を手にしても「何も変わらなかった」男と、猫と、AIの静かな一年。
8

読切短編 手を振る朝に

七時二十二分。毎朝同じホームに立つ女性に、男は十年間手を振り続けた。 振り返りはなかった。それでも彼は信じていた——彼女はきっと気づいている、ただ恥ずかしいのだと。 雨の日も、悲しみの朝も、手を振ることだけが変わらなかった。そして十年目の春、彼女が初めて手を振り返す。 だが翌日から、彼女は来なくなった。 ホームに残されたのは、一枚のポスターと、宙に浮いたままの右手だけ。 「見ていた」と「見えていた」——その静かな逆転が、読み終えた後もしばらく離れない。
9

小川

小さな家と庭、そして裏を流れる小川。 それだけが、少女の世界のすべてだった。 父と母、共に過ごす子どもたち。 変わらない毎日が、当たり前だと信じていた時間。 けれど、ある夜を境に、 世界は静かに形を変えていく。
10

読切短編 助けてください

エレベーターに閉じ込められた男が、非常ボタンを押して助けを求める。ただそれだけの話のはずだった。 だが待つあいだに、男は気づいてしまう。「助けてください」という言葉が、どこを向いているのかを。エレベーターのことか。仕事のことか。実家に帰った妻のことか。三年会っていない両親のことか——。 密室は、男の内側を映す鏡になる。 やがて扉は開く。作業員は言う、「大丈夫でしたか?」 男は答える。「……わかりません」 脱出できたのに、何一つ解決しない。その静かな不条理が、読み終えたあとも長く残る。握りしめたコーヒー缶の温もりとともに。
11

短々編-1-なくし物

死を目前にした人は、ときに思いもよらないことを口にする。 それを知っていた僕は、ベッドに横たわる彼に尋ねた。 「死は、怖くないのですか?」 彼は穏やかに微笑みながら、こう答える。 「君、死とは、すべてを失くすことだよ」 時間の尽きかけた病室で交わされる、静かな会話。 そこには絶望も涙もなく、ただ真っ直ぐに『死』という現象を見つめるまなざしがあった。 人は、忘れ物なのかもしれない。 「死」を通して浮かび上がる、「生」の輪郭。 ひとつの終わりに寄り添う、短くも深い物語。
12

読切短編 五月の桜は、誰も見ていない

東京に来て十年。四月になるたびに職場で飛び交う「桜前線」の話を、俺は少しだけ苛立ちながら聞いていた。 俺の地元、札幌の桜が咲くのは五月だ。本州の花見が終わり、誰もが桜を忘れた頃に、北の木々はようやく動き始める。そしてその季節になると、決まって思い出す顔があった。 幼馴染みの麻衣。彼女の誕生日は五月三日で、毎年その頃に桜が満開になった。 今年、初めて五月に帰った。理由はうまく説明できない。ただ気づいたら、航空券を調べていた。 待ち合わせの公園で、俺は手紙を書いた。書き出しだけ、すぐに決まった。 「本州では誰も桜の話をしなくなった頃に、あなたのことを思い出していた」 彼女は来た。そして俺は、手紙を渡さなかった。
13

ただ、生きている

静かな日常の中にある、 小さな孤独、ささやかな喜び、 言えなかった言葉、そして失ったもの。 特別な出来事は起きない。 けれど確かに、私たちは生きている。 『21:00の街』と同じ空気の中にある、 日々の風景を切り取った掌編連作。
14

【連作短編040】 レジンの海 全6話 ―持ち帰れた海と、持ち帰れなかった海―

沖縄の海沿いの集落で、レジンアートを作り続ける女・凪。 観光客は「沖縄の海みたい」と言って買っていく。でも凪が閉じ込めたいのは、晴れた日の青だけではない。 東京にいた十年間、同じ材料で同じように作っても、どこか嘘くさかった。その理由がわからないまま、七年前に戻ってきた。 なぜ戻ってきたのか。なぜここでなければ作れないのか。言葉にできないことまで含めて、凪はただ、作り続ける。 持ち帰れた海と、持ち帰れなかった海。 沖縄を舞台にした静かな中編小説。全6話。
15

読切短編 夫が死んだ日、桜が咲いた

二十五年間、桜前線の予測を一度も外さなかった気象予報士がいる。 夫が死んだのは去年の三月、東京の桜が満開になったその日だった。ちょうど彼女が予測した通りの開花日に。 今年も変わらずモニターに向かい、等圧線を引き、前線の北上を追う。本州の桜が散り、誰もが花見を忘れた頃も、彼女だけはまだ前線を見続けていた。 前線が北へ進むほど、あの春から遠ざかっていく。それが悲しいのか、救いなのか——答えは出ないまま、今年も前線は北の果てへ向かう。 二十五年間、唯一予測できなかったのは夫の死だけだった。そしてもうひとつ、来年の春、自分がどこに立っているかも、彼女には分からない。
16

霧に棲むひと──山梔子は夢を見せる(花々の祝福1)

霧の深い日にだけ現れる、名前のない女。 夏樹は彼女と出会い、やがて恋人になる。 けれど彼女はどこか不自然だった。冷たい身体、生活の気配のない部屋、そして――決して語られない“正体”。 ある夜、夏樹は彼女の秘密を知ってしまう。 それは、決して触れてはいけなかったものだった。 愛したものの正体を知ったとき、人はどこまで残酷になってしまうのか。 そして、残されたものは何を想うのか。 霧の中に棲む、ひとつの恋の記憶。
17

読切短編 白いまま

父が死んだと聞いたとき、私は泣かなかった。 十八で家を出て、それきりになった父。半年後、誰かが片付けなければならないからと、海辺の町へ戻る。シャッターの閉まったサーフショップ。埃の積もった倉庫。壁に立てかけられた二十枚以上のボード——全てに、油性ペンで日付が書いてあった。 一枚だけ、日付のないボードがあった。 何の傷もない、白いまま取り残されたボード。常連の老人は言った。「お前さんが生まれた年に買ったやつだ。一度も海に入れなかった」 父は何も言わなかった。私も何も聞かなかった。それでも、ボードはそこにあった。
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