ライト文芸 コーヒー 小説一覧

9件
1

記憶を淹れる場所

その喫茶店『追憶堂』は、賑やかな駅前商店街の路地裏にひっそりと佇んでいる。 店主の男はいつも、煤けた銀色のサイフォンを愛おしそうに眺めていた。この店にはメニューがない。客が席に座ると、店主はただその表情を見て、その瞬間に最も必要な一杯を淹れる。 様子見ですね 評判が良ければ、願いが叶うコーヒー、恋が叶うコーヒーの話を続けたいと思っています。
2

『このまちに,湯気が立つ』 ―じいじと私の喫茶店―

城下町の石畳に,今日も煙が上がる。 声が出なくなって,会社を辞めた。 行き場を失った24歳の光が向かったのは,「じいじ」が営む小さな喫茶店だった。 「喫茶 くぬぎ」のメニューは,4種類だけ。 コーヒー,紅茶,ミルク,ココア。 食べ物は出さない。 氷も仕入れない。 「赤字を出す店は,設計が悪い」と,元大工のじいじは言う。 亡き妻に「死ぬ前に好きなことをしろ」と言われ,大工道具の代わりにネルドリップを手にしたじいじは,黙って豆を炒り,黙ってコーヒーを淹れ,黙って光の椅子を用意して待っていた。 光は毎朝,実家から自転車で石畳を走る。 蒸らしの30秒,焙煎の音,豆の膨らみ——じいじが20年かけて積み上げた設計を,少しずつ体に入れていく。 でも,じいじの手が,震え始める。 秋が来て,冬が来て,灯りがついていた2階の窓が,暗くなる日が来る。 じいじの靴が,なかった。 けれど,光はわかっていた。 ネルをセットして,湯を注いで,開店した。 じいじが設計した店は,今日も動いている。
3

想い出は珈琲の薫りとともに

――珈琲が織りなす、家族の物語  バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。  ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。   亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。   旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
4

コーヒー日和

 28歳の会社員である主人公が、自分の好みのコーヒーを探求する物語。  実際のコーヒーの商品名を記載して主人公の好みでレビューしながら日常を描いていきます。  お気に入りの一杯を見つけるため、豆や抽出方法を研究する日々の中で、彼女が感じる小さな喜びや発見が描かれています。 ※あくまで個人の好みでの感想となります。 ※コーヒーについての勉強はあまりしておらず、色々探りながら抽出方法や種類を試しているので、コーヒーに対する知見が誤っている可能性があります。
5

冷めたコーヒーと寝かせたカレー

冷めたコーヒーと寝かせたカレー。 それぞれの想いが交わりすれ違う、大人のお話です。 1000文字以内の短編3本です。
6

スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜

その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。 コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。    嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。
7

傘

傘立てには二つの傘が差してあった――それが大問題だった。 その日は雨だった。いきつけの喫茶店でコーヒーを堪能した勉が帰ろうとした時、問題が起こった。傘立てを見ると、そこには勉が持ってきたはずの傘と全く同じ傘がもう一本刺さっていたのだ。勉は困惑し、悩んだ。俺の傘、どっち?!
8

『くぬぎの椅子』 ―城下町の喫茶店で見ていたもの―

喫茶くぬぎには,毎朝8時半に来る老大工がいる。 昼前に本を持ってくる,元教師の女性がいる。 夕方5時に,無口な中年男が来る。 『このまちに,湯気が立つ』で,光とじいじが「内側」で生きていた時間を,「外側」から見ていた人たちがいた。 この作品は,その人たちの話だ。 じいじのコーヒーが,どんな味だったか。 光の声が,どう変わっていったか。 じいじの手が,いつ,震え始めたか。 誰も,口にしなかった。 でも,見ていた。 毎日,見ていた。 カウンターの端に座った老大工は,じいじの手の変化に,秋に気づく。 窓際のテーブルで本を開く元教師の女性は,光の声が月ごとに戻っていくのを,聞き続ける。 右から2番目の席の無口な男は,孫娘のトレーを持つ手首が変わった日を,覚えている。 『このまちに,湯気が立つ』と同じ時間軸の上に,この作品はある。 同じ石畳を,同じ朝に,別の人間が歩いていた。 同じコーヒーの香りを,別の場所で嗅いでいた。 じいじが逝って,光が1人で店を開けるようになってから,また,それぞれが来た。 「じいじさんの味がする」と,元教師の女性は言った。 涙を,拭かなかった。 城下町の喫茶くぬぎで,人々が見ていたもの。 感じていたもの。 声にしなかったもの。 『このまちに,湯気が立つ』の,もう一つの物語。
9

コーヒー・ドロップス

 大学生、高屋直之には忘れられない人がいた。  喫茶店でのバイトの帰り道、偶然にも意中の人、高校の部活動で一緒だった先輩、折田裕子と再会する。  似つかわしくない華美な化粧と服装に、鬼のような形相、そして一筋の涙。  終わったはずの恋心が今、再び薫り立つ――
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