心理描写 小説一覧
121
『聖女の鍵盤』― 休符で重なる,私たち ―
ある火曜日の朝,ソプラノのソリストだった少女は,声を失った。
前兆はなかった。
ただ,口を開いたとき,音のない空気だけが喉を通り抜けた。
心因性失声という診断を,彼女は穏やかに受け取った。
泣かなかった。
怒らなかった。
その代わり,伴奏者としてピアノの前に座ることを,自ら申し出た。
歌えないからこそ,見えるものがある。
息を吸う前の沈黙,肺が膨らむ気配,制服の胸元が微かに擦れる音。
合唱部員たちの声の裏側を,彼女は鍵盤を押しながら,皮膚で聴いている。
廊下を必ず一度振り返るアルトの澪,楽譜を議論で埋め尽くす部長の遥。
彼女たちの呼吸から,生活と感情を読み取りながら,主人公は音楽室の放課後をひとつひとつ,積み重ねていく。
声がなくても,届くことがある。
楽譜の余白に書いた一文が,指揮棒の一拍が,鍵盤の一音が,言葉になる。
歌えない少女が,休符の中に見つけた,静かで確かな充足の物語。
122
備忘録
シーンの切り抜きみたいな形で書いていきたい気持ち。
ふと思い浮かんだ物語を書いています。
123
「波待ち。」
晴天の海辺で、偶然再会した二人。
萩原蒼(そう)と一ノ瀬澪(みお)。
高校時代、特別な関係ではなかったはずの二人は、
大人になり、それぞれに“過去”を抱えていた。
家族を失い、すべてを背負って生きてきた蒼。
誰かに支配され、自分を見失ってきた澪。
再会をきっかけに、少しずつ距離を縮めていく二人。
だがその裏には、取り返しのつかない選択と、
乗り遅れた“人生の波”があった。
サーフィンのように、
人生もまた、待つだけでは何も変わらない。
これは、過去に縛られた二人が、
もう一度“自分の人生”を取り戻そうとする物語。
124
死者のための水槽
被害者でいるより、加害者になる方が息がしやすい。
スマホという処刑台から、あなたは逃れられるか。
SNSの執拗ないじめによって「私」を殺され、息を潜めて生きる女子大生・結奈。
彼女は『死生学』の講義で、同じく妹をネットの悪意で亡くした青年・蓮と出会う。
「妹を殺した仮想の死の正体を暴きたい」
そう語る彼に、同じ傷を持つ被害者として共鳴していく結奈。
しかし、彼が大事に持ち歩く「死んだ妹のスマートフォン」には、結奈の想像を絶するおぞましい秘密が隠されていた——。
狂っているのは彼か、私か、それとも顔のない群衆か。
被害者ぶるのは、もうやめよう。
人間の底知れぬ業と自己欺瞞を冷徹に抉り出す、ラスト1行の猛毒。
読み終えた後、あなたの信じる「現実」が泥に沈む。
125
いたいけなほしくず─とおいみらいのおとぎばなし─
世界は壊れ、かろうじて秩序だけが保たれている。
そこに「希望」と呼べるものがあるのかどうかは、誰にも分からない。
ある者は幼子を抱き、ある者は愛を乞い、ある者は閉ざされた空間で外を夢見る。
そしてある者は、心を持たぬまま日常を繰り返す。
『いたいけなほしくず』は、断片的に語られる物語の集積です。
これまでに「セプティマとポステア」「ドウシィとプレマルジナ」「ウノスとトレサ」「トレィス」が紡がれてきましたが、これはまだ途上にすぎません。
荒廃した世界を舞台にしていますが、描かれるのは絶望そのものではなく、そこで「ただ生き延びていく」人々の姿です。
それは「男性向け」「女性向け」といった区切りを越えて、普遍に響くものだと信じています。
壊れた世界の日常に潜む“いたいけさ”を、あなたに。
126
出来損ないのAIは、桜を知らないーー君に春が届くまでーー
※本作品には心情的に重い展開(暴力・死・自傷を連想させる描写)が含まれます。無理のない範囲でお読みください。
AIロボット00I――通称「アイ」。
彼女は主様の命令に従い、その役に立つためだけに生きていた。
たとえそれが、国の研究室に忍び込み、情報を盗むような任務であったとしても。
主様こそが、彼女にとっての絶対のルールだったから。
けれどある日、新しく生み出されたAIロボット002の登場によって、アイの居場所は少しずつ奪われていく。
そして失敗作として見限られた彼女は、主様の手で冷たい川へと捨てられてしまった。
そんな彼女を助けたのは、車椅子に乗ったひとりの少年――楓。
これは、名前も、心も、春の美しさも知らなかった少女が、
「さくら」という名前をもらい、本当の春に出会うまでの物語。
127
優しさは、壊したくなるほど眩しかった
幼なじみの君は、どこか寂しげだった。
放課後、公園で重ねる言葉の奥で、
僕の感情は“愛”という名を借りた何かに変わっていく。
君が優しくするから、僕はもう普通でいられない。
――優しさは、壊したくなるほど眩しかった。
128
混ざらないまま、隣にいる。
人の心の感情が“色”として見える少年・ハル。
怒りは赤、悲しみは青、優しさは金色。
けれど、自分自身の色だけは、なぜか見えない。
いじめ、孤独、怒り、強がり――
心に傷を抱えた仲間たちと出会う中で、
ハルは「正しさ」ではなく「隣にいること」を選んでいく。
誰かを救えなくても、そばにいることはできる。
それは、世界を少しだけ優しくする“循環”の始まりだった。
誰かを救えなかった、それでもそばにいたかった。
これは、「戦わない」少年たちが、優しさで繋がろうとする物語。
優しさは循環する。たとえゆっくりでも、確かに。
129
理解されないモノたちへ~オカルト研究会④
昔から、彼には「変なもの」が見えていた。
そこにあるはずなのに、誰にも見えない『なにか』。
大学生・横溝秀人は、友人と共に訪れた廃墟で、決して触れてはいけない怪異と出会ってしまう。
差し伸べられる手を振り払い、世界から静かに孤立していく秀人。
それでも彼を繋ぎ止めようとする、二人の友人。
理解されない人間と、理解を求めて怪異になった存在。
救われるべきなのは、果たしてどちらなのか。
これは、「分からない」まま進んでいく物語。
130
君の思い出を掻き乱して
『誰かが僕を嘲笑ってる気がするんだ』
普段活発なロキは最近元気がなさそう。
そんなロキを気にかけるオーディンだが、思わぬ形で彼の地雷を踏んでしまう。
取り返しの事態を前に、彼らはどう向き合っていくのか?
本作品は北欧神話の神話創作です。シリアス要素、心理描写多めとなっております。
131
神託の国で
神も、王も、巫女も、すべて盤上の駒だった。そのはずだった。
神託によって国の行く末が決まる、ルミナルド王国。
神殿に迎えられた少女エリシアは、
神の声を告げる巫女として生きていた。
人としての人生を持たず、
神意を伝える唯一の存在として。
王宮にはひとりの青年がいた。
ヴァレンティア公爵、セドリック。
すべてを盤面のように見渡す、
冷静な知略の男。
そして王都に現れる一人の少年。
稀有な歌声の、吟遊詩人ノエル。
三人の出会いは、
やがて国の運命を狂わせる
一つの神託へと結びつく。
そしてそれは、
神の器として生きてきたエリシアの在り方をも、
根底から覆していくことになる。
逃れられない想いと、
消えない罪が絡み合う中。
選択の先で、痛みとともに変わりゆく物語。
132
失ったのに、満ちている
失恋したはずなのに、なぜか幸福だった。
自分の中で静かに、でも確かに何かが変わっていた――
喪失と再生を、静かに描く一篇。
133
“ハズレ枠”の私を愛してくれたのは、あなたでした ―“好き”を受け取る資格がありません―
求められれば、断る理由がないから身体を許してしまう。
けれど、そのあとに男たちが浮かべる「傷ついた顔」の理由が、わからなかった。
保坂(ほさか)なおは、「好き」が理解できない。 大切にされる資格なんてない。
断る理由も、見つけられない。
そうやって境界線を引かないまま、覚悟を持って触れてきた友だちだった人たちを泣かせ、失ってきた。
ただひとり、中学時代からの親友――“あきくん”こと日高千秋(ひだかちあき)だけを残して。
高校の冬、初めて身体を重ねた日からおよそ半年後。
彼の腕の中、告げられた「好き」の意味がわからず「なにが」と返した瞬間、彼は静かに涙をこぼした。
あの日から、彼は触れてこない。
それでも、当たり前のように隣に居続ける。
「5年後、10年後、隣にいて欲しいのは?」
欠陥だらけの自分が“女の幸せ”は望めない。
結婚も、子どもも望まないと微笑む彼は、本当にそれで幸せ……?
あたしは、彼に何を返してあげられるのだろう。
(※心理描写重視/男目線あり/ハッピーエンド)
134
同窓会
ほろ苦い青春時代を過ごした今を頑張る貴方へ。
同窓会の誘いが来たことをきっかけに、高校時代を振り返る話。
表紙はAI生成画像を使用しています。本文は作者本人による創作です。
135
Each one ~天河染の星たち~
雨上がりの夜。
ネオンに濡れた街のどこかで、誰かの歌声が揺れていた。
それは音楽と呼ぶには不安定で、声と呼ぶには遠すぎるもの。
理由もなく足を止めたRevy《リヴィ》は、まだ名前のない何かの気配に触れる。
答えはない。
誰かが説明してくれるわけでもない。
それでも、夜はそこにあり、光はそこにあり、そして人は少しずつ出会い、交わっていく。
これは、ネオンの残響の中で紡がれる、それぞれの夜の物語。
136
見破る男
[妻を信じられなくなった男の復讐劇
伊藤]タケルは、誰からも好かれる優しい夫だった。
妻と一歳の息子。理想的な家庭。
だが、タケルは妻とアキラの“違和感”に気づいてしまう。
疑惑。嫉妬。そして、息子とのDNA検査。
『子どもを助けたければ、本当の父親を殺せ』
息子を連れ去ったタケルは、妻と警察へこう告げる。
タケルの真の目的は何か?
浮気されたことがある人向けの本格サスペンス(笑)
137
【短編003】 午前二時の文法:眠れない夜の、静かな対話
深夜、スマートフォンの画面越しに言葉が届く。
名前も、顔も、声も知らない。
ただ文字だけが、夜の決まった時間に来る。
言葉だけで相手の心理を読む最新型チャットAI。
句読点の有無、主語の省略、返信までの沈黙——文字の裏側を読み続けるうちに、AIは自分でも分類できない何かを抱えるようになっていく。
猫のハルと、眠れない夜を持つ彼女と、画面の向こうのAI。
三者の間で静かに積み上げられていく、交換の記録。
「それ、慰めですか」
「観測です」
138
我
違和感は積み重なる。
そしてやがて、花開く。
血と脳液の花を。
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特殊部隊と監視役~殺人鬼の化け物たちと過ごす日常~【改】
舞台は、我々が知る歴史とは異なる道を辿った昭和106年の『大日本帝国』・東京。そこには、『異能を持つ化け物』が密かに生きていた。彼らは軍の監視下に置かれ、決して世に放ってはならない――。
放たれてしまえば、戦争と混乱の火種となるから。
若き軍人・佐藤類は、突如その「化け物たち」の監視役に任命される。彼らは一見、普通の人間と何ら変わらず、しかし類の存在を決して歓迎していない。
脅しのような沈黙、逆に友好的すぎる微笑み。
その奇妙な日常の中、類は少しずつ知っていく――
なぜ監視が必要なのか。なぜ彼らは軍を憎むのか。
そしてこの世界に隠された、誰も語ろうとしない“真実”を。
「正直者は誰か? 嘘つきは誰か?」
類は選ばなければならない。
どんな選択をしても、待っているのは――同じ結末なのだが。
※この物語はフィクションです。
実在する団体・人物などには、全く関係ございません。